niyalistのブログ

東京大学 生産技術研究所でITと公共交通について研究している伊藤昌毅が、日々思うことや研究のことを書きます。

IT Offers Opportunities to Public Transport: Have a Clear Vision to Lead the World

Tokyo Kotsu Shimbun Jan 9, 2017: 3. Print.

(Original article is written in Japanese.)

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Six years have passed since I became involved in Japanese public transportation as a researcher of information technology. While route buses in small cities in Japan have been in a very severe situation due to the decrease in public transit ridership in the past several decades, with the recent development of information technology such as smartphones, the automatic vehicle location systems and applications are able to be installed a hundred times or more cheaper than it was in the past. Also, in small cities, you do not have to consider the existing systems and services which might have already been installed in big cities. All these allowed me to study at the cutting edge of technology development. My own interest has also shifted from introducing the systems and services used in the urban areas to the rural areas to improving the efficiency of public transportation using IT and searching for better transportation that is realized with IT.

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The impact of IT on public transportation is not limited to my personal history. There is a big movement around the world that explores new forms of mobility with sharing vehicles utilizing smartphones and cloud computing. This is based on the trend shifting from individual car ownership to mobility services and also the movement aiming toward smart city, where infrastructure including electricity and transportation is highly controlled by information technology, efficient and environment-friendly, and where it is safe and comfortable to live. Public transportation, which had been thought to be obsolete especially in rural areas, is now being re-evaluated with its efficiency and eco-friendliness. Being put in contemporary context, public transportation is now the showcase of the latest technology.

Theodore Levitt, an American economist, says "People don't want to buy a quarter-inch drill, they want a quarter-inch hole." Putting it in practice in the mobility field, "Mobility as a Service" (MaaS) has started from Europe. You can search and compare mobility services such as railroads, buses, car sharing, bicycle sharing as well as to make reservations and payment all at once with a single smartphone application in one stroke. Users want to reach somewhere rather than want to ride on something, so the smartphone application builds and provides services that combine various means of transportation.

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Today, automotive manufacturers all over the world are trying to incorporate public mobility services into their business. There was a big move such as Daimler started car sharing service called car2go in 2008, and in 2016, Ford Motor Corporation being in the process of acquiring Chariot, a commuter shuttle service company in San Francisco city, and Volkswagen Group launched a new mobility services company, MOIA. Investment in ride sharing by automobile companies is also the way to explore new mobility. 2016 was the year when the future image of a private car and the future image of public transportation overlapped for the first time.

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When Japanese bus and taxi operators discuss over new mobility, they tend to regard it as a threat to their business from abroad. In logistics, however, it is Japan that established a world-class high-level service such as courier services and convenience stores. Do not fuss around overseas trends; Japan should have the power to set up a new vision of public transportation that takes the lead in the world. Let’s work together for it.

Masaki Ito

Research associate, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo. Received B.A. in Environment and Information Studies in 2002 and Ph.D. in Media and Governance in 2009 both at Keio University. Assistant Professor, Graduate School of Engineering, Tottori University from 2010 to 2013. Current position since 2013. Specialties are ubiquitous computing and spatial information technology. Currently he is interested in information technology and public transportation, and is engaged in developing smartphone apps for advanced mobility, analysis of big data in public transportation, and promotion of open data.

Uber雑感

SIGSPATIAL参加のためにサンフランシスコ出張。10月30日に到着して、11月4日に発つ5泊の間に、4回Uberを利用。やっぱりアプリの出来はとても良く出来てて、ITサービスとしての完成度の高さはさすが。このクオリティのシステムを作るにはそれなりのITエンジニアがそれなりの人数、期間をちゃんと思いを持って携わっていないと出来ないはずで、こういうのはシステムを外注してたり経営層にITへの理解がない事業者からは中々出てこない。ITエンジニアの転職が多くて、良いものとは何か、どう作るかという感覚や考え方が広く共有されてることも背景だと思う。なお、滞在中に大きなアップデートがあり操作方法が変わって戸惑った。ちゃんとスクリーンショットを撮っておけば良かった。

 

とにかく外国人にとって嬉しいのは、近所の雑貨屋にすら治安や歩道の整備不足とかで行きづらいアメリカで、Uberの登場で初めて移動の自由を得たこと。呼べばどこにでもすぐ来るし、タクシーと思えばそれほど高くない料金でどこにでも行ける。車を持っていない旅行者が感じる移動の絶望的な不自由さが、この数年で一気に解消した感覚がある。アメリカ人にとっても近い感覚はあるんだろうな。

 

こういう感覚は、公共交通機関が発達したヨーロッパの街ではほとんど感じなかったし、流しのタクシーがすぐ捕まる中国の都市でも感じなかった。日本に来た外国人は果たしてどう感じてるんだろうか。

 

1回、かなり近距離をお願いした時にアプリの操作で迎えに来る車が割り当てられたのに、その車が中々こっちにこなくて周りをウロウロしてた事があった。結局キャンセルしたんだけど、おそらく乗車拒否をされたような気がする。

 

ドライバーが、1人は移民、あとは多分アメリカ人、1人は耳が聞こえない方のようだった。ちゃんと稼げてるんだろうか、みたいな話は出来なかった。1人は、ゴールデンゲートブリッジに向かう途中で観光案内的なこともしてくれてありがたかった。

 

ドライバーを評価する仕組みは、生活がかかっているのが分かるのでこっちも緊張するね。日本の感覚だと中々満点って付けにくいけど、特に瑕疵がなかったら満点なんだよね。ということで今回も皆五つ星。あと、その人にあった評価軸の定型文からコメントを選べるようになってたのが面白かった。「観光ガイドがとても良かった」みたいな。

 

よく問題になる安全性に関しては、正直よくわからない。運転や地元の道に慣れてる人の運転という感じで、不安は感じなかった。これが仮に日本人同士で、自分もよく知ってる道だったらどう感じるんだろうか。女子学生には1人で乗るのはやめた方がいいと言ったけど、他の手段よりは実際のところ安全かもしれない。まあ、そもそもアメリカで夜1人で出歩くもんじゃない。

 

サンフランシスコにはUberAirbnbの本社があるので、余計にこの町の風土に合うのかもしれない。

 

個人的にもう一つ欲しいと思った交通に革新をもたらすアプリは、「モーゼ」というやつで、信号や歩道が十分整備されてないアメリカの街で、ボタンを押すと車が止まってくれて歩いて横断できるようになるアプリ。誰か作ってくれないかな。

State of the Map Japan 2016 発表資料(勝手リンク集)

2016年8月6日(土)に赤羽会館にて開催されたOpenStreetMapのカンファレンス State of the Map Japan 2016 で発表された資料のうち、公開されたものに関してリンク集を作成しました。抜けがあったらご連絡下さい。 会場の雰囲気はこちらのTogetterで。

togetter.com

基調講演

www.slideshare.net

講演(午前)

  • 「今の情報」がOpenStreetMapの可能性を広げる。 業務・ビジネスの支援システムへの応用
    • 相川 哲盛 (株式会社日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 CIS本部 スマートモビリティ開発部 部長)

スロットグループA

  • こんなところにOSM

    • loglogy
  • 避難所支援システムにおけるOpenStreetMapの利用

    • 山下 幸祐

speakerdeck.com

  • 地図と構内図と公共交通が融合する未来について
    • 川島 和澄

スロットグループB

  • OSMのデータ取り込みツール、ライブラリの解説
    • 松澤 太郎 (@smellman)

speakerdeck.com

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  • 刷新された CARTO で OSM データを活かす

講演(午後)

speakerdeck.com

スロットグループC

www.slideshare.net

  • OSM Fukushima 3D城郭建立記

    • 目黒 純
  • 山下 康成

    • 京都は攻めている!

スロットグループD

  • Mapillary – Photos and Data to Improve your OSM Editing

    • Mapillary (飯田哲による代読)
  • Mapillaryは何ができ何を残せるのか

    • 宮森 達弘
  • 地域課題解決型位置情報ビジネス

    • 林竜彦(株式会社デザイニウム)

スロットグループE

www.slideshare.net

スロットグループF

  • グラフィックコンテンツとしてのOSM-PBMap

    • 村松 和善(東京カートグラフィック株式会社 営業部 課長)
  • OSM:人のつながり、時間の重なり

    • ikiya

ライトニングトーク

  • 日本版 tracktype=grade1 or highway=unclassified

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  • Garmin地図データ作成の苦労

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「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」発表資料と反応

「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」で発表された資料をまとめてゆきます。(資料が公開され次第追加してゆきます)

  • 日時: 2016年2月12日
  • 場所: 東京大学 駒場第2キャンパス コンベンションホール

geomediasummit.doorkeeper.jp

発表資料

それぞれのスライドは、リンクを辿ることで、配布元からpdfをダウンロード出来ます。

第1部 趣旨説明と概論

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  • 国土交通省の公共交通政策とITの活用
    • 吉木務 (国土交通省 総合政策局 公共交通政策部 交通計画課 地域振興室長)

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第2部 都市と地方の公共交通

  • JR東日本におけるスマートフォン向け情報提供サービスの研究開発 ~リアルタイム列車位置情報、駅構内ナビゲーションシステム、公共交通連携~
  • 地方公共交通再生に向けた3つの見える化

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  • (飛び入り)日本最低のバスロケーションシステムとバスダイヤ編成支援システム
    • 高野孝一 (スジヤシステムズ 代表)

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第3部 コンテンツプロバイダから見る公共交通

  • 誰もが使う「乗換案内」というツールと“バス検索の歩み”と未来像。

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  • 駅すぱあと」における路線バスデータの現状と、公共交通データがオープン化された未来について
    • 諸星賢治 (株式会社ヴァル研究所 コンテンツ開発部 バス制作チーム)

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第4部 公共交通を支えるコミュニティ

  • オープンなコミュニティによる地域課題解決

speakerdeck.com

  • (飛び入り)「地域のバス情報をオープンデータ化し世界に発信するOpenTrans.itの紹介」

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  • 「バス停検索」の開発・運用とそこに集う公共交通データ整備コミュニティについて

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  • 路線図ドットコムが挑み続けた公共交通データの収集と整備の19年

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ディスカッション「これからの公共交通データのエコシステム」

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反応

togetter.com

Yoshitaka Naganoさんによるまとめ github.com

ちずらぼさんによるまとめと感想 plaza.rakuten.co.jp

鳴海行人さんの感想 交通ジオメディアサミット #gms2016 に参加した

チミンモラスイ! : 「交通ジオメディアサミット」参加!

internet.watch.impress.co.jp

OpenStreetMap勉強会 バス停編に参加した

 2月6日(日)に開催された「OpenStreetMap勉強会 バス停編」というイベントに参加してきました。場所は高円寺にあるヴァル研究所です。駅すぱあとを開発している会社です。OpenStreetMapOSM)とは、Wikipediaのようにボランティアのユーザが少しずつデータを登録して出来る地図で、ODbLというライセンスに基づいて自由にデータが利用出来るのが特徴です。世界中で活動がされていますが、日本でもコミュニティ活動が盛んで、しばしば、マッピングパーティーというイベントを開いています。普通マッピングパーティーというのは、OSMの愛好者(マッパーと呼ぶ)や興味のある人が集まり、あるエリアを調べてその後にデータを入力する、というような半分アウトドアなイベントが多いと思うのですが、今回は、屋内メインのイベントで、予め知っているバス停やバス路線を入力しようという会でした。

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プログラム

会の進行はこんな感じでした。記憶で補っているので間違ってたらごめんなさい。。

10:30 開場
10:35 簡単な開会宣言(林さん
10:40-11:00 ヴァル研究所:会場説明とOSMを使った取り組みを紹介
11:00-11: 15参加者自己紹介
11:20-11:30 「OSMとは・・・」 (斉藤さん
11:30 「バス停の入力方法」(林さん)

<<実習1>> バス停の入力。

12:00-13:30 <<昼食>>
13:30 「バス路線の入力方法」 (キムさん

13:45
<<実習2>> スライドでバスルートの編集方法を説明しながら各自でバスルートを編集する。
 ・バス停のタグ付
 ・バスルートのタグ付 & 経路 & etc
16:00
成果発表・LT

17:30 
懇親会(九州料理 マルキュウ - 高円寺/郷土料理(その他) [食べログ]

内容

 林さん、キムさんからOSMへのバス停、バス路線のデータ入力方法を教えて頂き、参加者がJOSMを使ってそれを実践してデータ入力するという会でした。OSMへのバス停やバス路線の入力は、あまり直感的でなかったりリレーションを理解していないと出来なかったりで、OSMへのデータ入力の中でも、高度な技術のようでした。今回も使った、キムさんのこのスライドが今もいい資料のようです。

バス停の入力

 バス停の位置とは、バスが止まる路上の位置を差すのでしょうか、バスのポールがある位置を差すのでしょうか。2011年以降、OSMではこのふたつを別のものとして入力します。上のスライドの32ページが詳しいのですが、ポールの位置には「プラットフォーム」を表すタグを入力します。駅のホームなどに対するタグなので、直感的ではないと思ったのですが、「乗り物を待つ場所」と言う意味で共通するのだそうです。一方、バスが止まる位置は車道の上に表現できます。他にも、バスベイという、バスが停車するために車道が膨らんでいるような構造も、表現できるそうです。

バス路線の入力

 バス路線は、新しくWayを入力するのではなく、道路を表すWayを並べた「リレーション」として表現します。このリレーションには、停車(通過)する全てのバス停も含みます。上下路線や、同じ名称の路線でも停車バス停が微妙に違う場合は、別のリレーションになります。そして、これらをまとめるリレーションのリレーションが必要になります。

 リレーションにおいては、順番が大事です。Wayが接続されるように、正しく並べる必要があります。行って戻るような路線の場合、2回通る部分のWayは2度並べる必要があります。正しく入力できている場合、バス路線の始点から終点まで、切れ目なくWayが繋がるようになります。(JSOMで簡単にチェックできます)

 バス停も、同じく始点から終点まで順番に並べてゆきます。上下でポールが分かれているならば、上下線のリレーションは、名称は同じ別のポールを含むことになります。この時、ポール位置だけを含めばいいのか、停車位置も含むべきかなどは厳密には決まっていないようでした。(実際には、停車位置の情報はほとんど無いのかもしれない)

 詳しくは、飯田さんのこのドキュメントが参考になります。

実習

 家の近くのバス停や普段利用するバス路線など、よく知っているバス情報を入力する実習を行いました。マッピングパーティーとして皆で調査に行けたら楽しかったと思うのですが、同じバス路線を全員で調べても入力が重複するだけなので仕方ないのかも知れません。私の場合、自宅近くのバス停やバス路線はほとんど入力が終わっていたので、いくつかバス路線が途切れている点を探し、それを直す方法を教えて頂きました。

感想

 OpenStreetMapのコミュニティも、「バスマップサミット」などを開催しているバスマップのコミュニティも、どちらも活発に活動しているのですが、これまでほとんど交流がありませんでした。今回の勉強会は、ふたつのコミュニティがバス停、バス路線データという切り口で初めて交流した、歴史的な意義のあるイベントだったと思います。企画された林さん、佐野さん、会場を準備された諸星さんほか、参加された皆様おつかれさまでした。たまたまふたつのコミュニティに顔を出していた自分にとっても、とてもうれしい企画でした。

 OSMでも特にバス路線を描いている林さん、キムさんから直接手ほどきを受けられる場であり、更に、バスマップのコミュニティにおいても、rosenzu.comとして長年バス停、バス路線、ダイヤデータの整備を行い、運輸局や乗換案内などに提供している伊藤浩之さん、万単位のバス停データを自分の足で調査されている佐野さんなど、そうそうたるメンバーが揃い、大げさではなく、バスデータに関しては日本の英知が揃う場だったと思います。こうした方が揃い、データ仕様などについて議論するのを伺うのは、それだけで鳥肌が立つような思いでした。

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 一方で、これは悪いことではないと思うのですが、OSMの視点と、バスマップの視点と、似たようなことをやっているように見えても、やはり簡単に重なるわけではないということも明らかになったと思います。伊藤浩之さんが「自分のやっていることは地図を作ることではなく、出来た地図に色を塗るような仕事だ」というようなことを仰っていたのですが、バスサービス側に視点を持つと、バス停や路線はいくらでも変わりうるものであり、道路を走る車や人を地図に載せないように、地図という静的なデータベースの一要素にバス停・バス路線が載るのは不思議な感覚があるのかもしれません。静的な構造物と捉えモデル化しようとするOSMの視点と、重ならないものを感じました。(ランドマークとしてのバス停の意味を否定している訳ではないのですが、バスサービス側に視点があると、それは副次的な意味に感じるかも知れません)

 ソフトウェアにおいても、JOSMでの編集は、機能が豊富で汎用性は高いものの、バス路線の編集に特化しているわけではなく、入力のしがたさは否めなかったと思います。簡単に道をなぞったらバス路線が引け、道路の変更に対してうまくやってくれて、バス路線の変更も簡単なバス路線エディタがあったらいいな、と考えてしまいました。

 また、既に大量のバス停データを持っていても、簡単にはOSMへはインポートできないという感覚も持ちました。データの形式変換やMLでの議論のような手続き的な話だけでなく、モデル化の部分に立ち戻ってOSMの「作法」を考慮していないと、データの調整が意外と必要で、一つ一つのバス停をOSM地図上でしっかり見直さないといけないような予感もしました。(これはもう少し具体的にやってみないと分からないのですが)

 このような、細かい技術的課題はまだいろいろな試行錯誤が必要な段階だと思うのですが、しかし、「バス」というテーマでこれだけ熱心な勉強会が開催され、懇親会も非常に濃く熱い話が尽きないという、そんな状況を、とてもうれしく思い、また勇気づけられました。道路や建物というハードウェアに対して、鉄道、バスのような交通は、都市のソフトウェア的な部分で、この部分の豊かさが大事であると多くの人が気付いているのだと思っています。私自身も、鳥取で「バスネット」に関わっているときに、OSMのデータを利用してバス路線図を作成するような試みを学生と行っておりました。十分な成果は出せなかったのですが、乗換案内のようなサービスの高度化を考えたときにも、地図とのより深い連携は重要な課題だと思っております。

 来週に迫った「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」に対しても、とてもいい課題を頂けたと思います。まだしばらく、公共交通とデータ整備について考えていきたいと思います。

Web系エンジニアこそ交通分野を目指すべき5つの理由

伊藤昌毅と申します。blogご無沙汰しております。
IT分野の人間のつもりですが、ここ数年公共交通に関わっておりまして、そろそろ機が熟した、というかむしろ今を逃すと手遅れになりかねないと思っているので、Web系エンジニアこそ交通分野を目指すべき!と力説させてください。

 現在、ITの人間は交通分野では部外者です。しかし、Uberに代表されるようにIT、特にWeb発の技術やカルチャーはこれから交通を大きく変えてゆくと思っています。変化はユーザの方に先に現れていて、車に乗る時はまずスマホで渋滞を調べたり、カーナビがあるのにスマホのナビを使ったり、電車に乗る時は経路を調べたり、遅延や事故の時はまずスマホで状況や代替経路を調べます。

 それでは、交通サービスを提供するの側が、そんなユーザの期待に応えられるようになっているでしょうか。残念ながら、今は交通手段や事業者ごとに情報も課金も分断され、何かを調べようにもいくつものアプリやウェブサイトを渡り歩く必要があります。速報性を求めるならTwitterの検索結果が一番速かったりします。

 今、ITを軸に、交通サービス全般を組み立て直す必要があると感じています。自動車、鉄道、バスなど、様々な交通に対して一貫したユーザ体験を提供すること、ユーザの振る舞いから問題点や需要を見抜き継続的にサービスを改善すること、ITを柱に置いたとき、ITだからこそ作り出せる交通サービスってあると思います。そして、そんな中でも、特に今活躍されているWeb系のエンジニアこそが、その経験や開発手法を携えて交通系を目指し、新しい考え方で交通サービスを作り替えてゆくべきだと思うのです。

1. ユーザ視点の先輩はWeb系

 交通分野の学会などでは「サービス」とか「カスタマー」「ユーザー」というような言葉を聞いたことはほとんどありません。これまでの土木は、作る人目線、役所目線の発想がほとんどでした。しかし考えてみれば、道路も鉄道も、利用者ありきのサービスです。どれだけ利用者の需要や期待に応えているか、満足して頂けているか、そこを目指さないとよい交通は作れません。

 この点で、Web分野は大先輩です。Web分野でUI/UXが言われるようになって何年経つでしょう。ユーザの動きを全てデータ化し、データに基づいてサービスを評価し進化させる、それが当たり前となって何年経つでしょう。スマホやiBeaconなどの技術進化で、より密にユーザの情報を得、より早いサイクルでサービスの改良と評価を繰り返すのが当然になっています。

 IoTがキーワードとなり、iPhoneAndroidがその機能を拡張させるように、これからスマホと自動車は一体化してゆきます。鉄道やバスの情報化も進み、スマホ経由で様々な情報にアクセス出来るようになるでしょう。ではその舞台の上で、ユーザ視点に立ったサービスを構築できるのは誰でしょうか?私は、今のWeb系エンジニアに他ならないと思っています。 

2. ソフトウェア技術の挑戦は交通分野にこそあり

 技術的に挑戦できる仕事がしたいと願うWeb系エンジニアは少なくないでしょう。これから、IoTやビッグデータ機械学習のような最先端技術、シェアリングエコノミーのような先端のビジネスモデルが、交通分野を牽引していきます。あらゆる乗り物がネット接続され、その位置や状況がリアルタイムにデータ化され、それを視覚化したり分析したりして、問題を発見し、素早く交通システムを改良してゆく。様々なデータ分析手法が研究されており、あとは実用化を待つだけになっています。Webの中で行われてきた素早いサイクルでのサービス改良が、今や実際の交通を対象に可能になりつつあります。そして、自動運転技術の実用化を目指して、ますますITの挑戦は続くでしょう。

 そうは言っても、いきなり明日から道路や線路を引き直すことは出来ず、せっかく問題を見つけてもPDCAサイクルを回すのは難しいと思うかもしれません。しかしスマホの浸透で、かなりのところまで人の交通行動に直接働きかけることも可能になりました。例えば、オンラインカーナビの経路を書き換え、交通を分散させ渋滞を軽減する、鉄道の検索結果の順番を変えることで、分散乗車を実現するなども可能かも知れません。エンジニアが開発したアルゴリズムが、現実の人の行動を変えてゆく時代は、もう目前なのです。

3. データや専門ソフトが使えるようになり参入障壁が低くなった

 交通に関連したサービスを構築したくても、必要なデータが手に入らないと思っていませんか?例えば道路地図なら、Wikipediaのような手法で作られた OpenStreetMap があり、地図データとして自由に使えますし、カーナビを作った事例もあります。公共交通分野は、時刻表や路線図データのオープンデータの整備が進みつつあります。これについては、私も海外の事情をレポートしていますが、日本にもこの流れは入ってくると思っています。

opendata - 公共交通オープンデータの現在 ロンドン編 - Qiita

opendata - 公共交通オープンデータの現在 アメリカ編 - Qiita

 道路や交通のデータを視覚化、分析するツールも、以前だったらとても高価だったような物が 、現在は同等品をオープンソースとして手に入れられます。GISという地図を表示したり分析したりするソフトウェアには、QGISという定番のオープンソース製品がありますし、データ分析に使うRやPythonなどもオープンソースです。ナビタイムジャパンによる交通データの分析事例も、ほとんどがオープンソースで作られていると聞いています。

4. 人と社会に貢献できる

 交通は、あらゆる人の生活に必須であり、 まちづくりの要でもあります。よい交通サービスがある所に人が集まり、町が発展してゆきます。使いやすい道路網がある所に、オフィスや生産拠点が発展しますし、全ての人に住みやすい町を作るには、公共交通の充実が必須です。そんな胸を張れる仕事に、ぜひ自分の技術で貢献したくないでしょうか。

 ITによる交通の効率化は、町の形を変えます。カーシェアリングやライドシェアなどが一般的になれば、交通量や駐車場も減り、その分歩行者に優しいまちづくりが出来るでしょう。どこでもシェアサイクルが使えるようになれば、バスや電車で安心して街の中心部に出られ、ちょっと足を伸ばしたところにあるお店にも気楽に行けるようになります。帰りには、駅前で一杯お酒を飲んでゆけます。交通は、私たちの街を、生活を変え、豊かに出来るのです。

5. 地方再生の要はITと交通との融合にあり

 徳島県神山町が注目を集めたり、高知に移住する人が出てきたり、株式会社たからのやまが話題になったり、IT、Web系でも感度の高い人は、今、地方に目を向けています。何もなく、衰退の一途のように見える地方ですが、視点を変えると、人間らしい生活を取り戻した、豊かさのきっかけもたくさん眠っています。私自身も「東京にいて東京を見ながら東京のためにモノを作っていても世界と戦えない」と思って5年前に鳥取に移り、そこで交通に目覚めました。その頃車載のスマホで作ったバスロケーションシステムが今も使われていますが、小さな町の、Google Mapsでは拡大できないような道を走るバスの位置が、リアルタイムに自分のスマホまで届く感動は忘れられません。

 現在、政府はUberのようなライドシェアを公共交通が乏しい地方に限り特区として認めることを検討しています。Uberの是非はともかく、現在、日本の地方は、少ない人的資源を効率的に配分しないと、生活基盤の維持すらままならない状態になっています。これは実は、ITの得意技です。オープンソースクラウドソーシング、シェアリングエコノミーなどの形で、これまで難しかった人や時間や知識や場所を資源として切り売りし、効率的な再配分と付加価値の創造を実現しています。もちろん、その先に血の通ったコミュニティ作りも忘れてはなりません。

 

是非シンポジウムにご参加ください

 ここまで読んで、交通分野に興味を持ってくださったWeb系エンジニアの皆さん、ぜひ、2月12日には私たちが開催するシンポジウム「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」にご参加ください!現在、このようなことを考えていても、受け皿となるようなIT系交通企業はほとんどありません。今回のシンポジウムでは、ユーザと交通を繋ぐ重要な立ち位置にいる乗換案内サービス事業者や、地域コミュニティで活動されている方などをお呼びし、大きな方向感を共有することを目指しています。乗換案内事業者は、ライバルであるジョルダン、ナビタイム、ヴァル研究所(駅すぱあとYahoo!乗換案内の中の人)が揃うのも画期的です!是非、このシンポジウムを出発点に、ともに新しい交通サービスを立ち上げてゆきましょう!

2011年を振り返る

2011年の終わりに,一年を振り返る記事を書いておこうと思う.自分としては,年より年度で動いている部分が多いので区切りという感覚は薄いのだけれど,書けるときにかけるだけ書いた方がいいかな,と思って.

 

2011年は,個人的には新しい場所で新しい研究を始める土台作りに奔走した1年だったと思う.鳥取大学に来たのが2010年10月.去年の今頃に何をしていたかはっきり覚えていないけれど,慶應義塾大学 徳田研究室で関わっていた研究プロジェクト(NICTダイナミックネットワークプロジェクト)の最終成果発表の準備を遠隔から手伝ったり,そのプロジェクトの一環で書いた論文を査読コメントを受け修正したり(この論文は無事採録された)など,まだ半分は慶應の仕事をしていたように思う.NICTのプロジェクトの最終発表では高評価を頂き,本年度から始まった後続プロジェクトにも徳田研究室からの提案が採択された.最後の半年を抜けることとなり色々と迷惑をかけたけれど,自分がお手伝いしたあ(色々と勉強させて頂いた)プロジェクトをそれなりの形で終えられ,ほっとしている.

 

今年になってようやく,自分なりの研究テーマを打ち立て,それを進めてゆこうという体勢を作り始められた気がする.研究室に新入生を迎え,そのために次年度の研究テーマについて教員5人のチームで議論し,その中で,自分なりの提案も取り入れて頂いた.研究室の体勢の中で,3名の4年生の卒論を直接指導させて頂いたり,数名の修士課程の学生とも一緒に研究を進められている.特に実績があるわけではない自分にこのようなチャンスをくださった先生方にはほんとうに感謝しているし,一緒にやることになって,私の試行錯誤に巻き込まれている学生が,少しでも楽しくて満足の得られる研究活動を送ってくれたらいいな,と思う.

 

バスネットへの参加

これまで研究をしていたテーマもあり,鳥取大学に来てどのような研究テーマを打ち立てようかは迷うところだったけれど,結局,私が来る以前から研究室で続けられていたバス・鉄道の経路探索しサービス「バスネット」の研究に参加しながら,自分なりのテーマを探してゆくことにした.鳥取に来てすぐにFOSS4G Osaka 2010で「日本一のバス案内システムが鳥取にあった:バスネットの技術と挑戦」というタイトルで発表したとおり,バスネットは大学の研究成果でありながら,運用体制も整備され実用サービスとして利用されている.

 

実は私が専門分野としているユビキタスコンピューティングという分野は,数年前から急速に実用化が進んだ状況があり,その状況でどのような研究テーマを設定するかは,難しい問題となっている.例えば,位置情報やセンサ情報,RFIDや小型端末などを使ったサービスは,スマートフォンクラウドコンピューティングなどをプラットフォームとして,実用レベルのサービスの開発が急速に進んでいる.その中で,研究者としてはより先進的で萌芽的なシステムやサービスを提案するか,厳密なモデル化や高度な数学などを駆使した精緻な研究を進めるか,途上国や高齢者など,技術が行き届かない対象への技術の導入を研究するか,いずれにしても研究分野の立ち上がり時期とは違う,第2,第3段階の研究テーマが求められている.

 

そうした状況で,バスネットは「ユビキタスサービスを実用サービスとして開発,運用しながら知見を得る」ための舞台として可能性に満ちているように思えた.アイディアを思いついて作っただけでは,もはや研究にならない.しかしそれを,十分な数のユーザに実用品として使ってもらい,フィードバックを得れば,その知見は研究としても高い価値を持つのではないか.大学の研究室が開発しているサービスで,これだけ継続的に運用されユーザを獲得しているサービスはそうそうない.このバスネットを,ユビキタスコンピューティングのアイディアを盛り込んで進化させれば,ユニークかつ先進的な研究成果を生み出せるのではないか,そのように考え,バスネットの研究に参加することを決めたのだった.

 

以来,なるべく積極的に,バスネットの話を色々なところでするように心掛けている.9月には,自分にとってホームグラウンドである国際会議Ubicomp 2011でポスター発表をしたほか,7月には青森県八戸市で開かれた日本モビリティマネジメント会議,11月には東京大学空間情報科学研究センター シンポジウム CSIS DAYS 2011といった,これまで参加機会のなかった交通分野,地理情報分野のイベントにも参加させて頂いた.これらの会議は,これまであまり繋がりのなかった,交通分野の専門家や事業者,研究者の方々などと知り合う機会にもなった.TwitterなどでIDは知っていた方もいらして,新しい分野に挑戦する際のソーシャルメディアの威力を再認識することとなった.

 

また2011年6月には,鳥取大学にて「鳥取発!地域交通の新しい姿 公共交通利用促進に向けた情報技術の利用に関するセミナー」というイベントを開催し,そこで,今後の研究方針について少し話をさせて頂いた(発表資料).研究テーマに関しては,これまでバスネットの研究を進めてこられた菅原先生,川村先生などと継続的に議論させて頂くとともに,卒論,修論研究などの形で進めている学生とも議論を重ね,この段階から,アイディア的にも技術的にもだいぶ深まっている.今年は,今まさに出始めている具体的な成果を示しながら,学会などでの発表も進めてゆきたいし,サービスの進化も目指してゆきたい.

 

地域志向の試行錯誤

鳥取に来て真っ先に思ったのは,「地域性のある研究をしたい」ということだった.この土地でしか出来ない,かつ世界的にも競争力のある研究テーマを何とかして見つけたい,そう思っていた.バスネットに参加して,確かにここでしか出来ない研究テーマだ,ということで非常に満足している.地域のバス事業者の方と話をする機会を持ちながら研究を進めるなど,簡単には出来ないことだな,とありがたく感じている.しかし一方で,実用サービスを構築するに際して考慮すべき細部に至れば至るほど,議論がドメスティックになりがちで,そのこと自体の善し悪しは簡単には言えないと思うのだけれど,戸惑ってもいる.ドメスティックというのは,鳥取ならではというより,日本ならでは,ということである.どうしても,実運用に近いサービスになると,日本の路線バスの仕組みや法制度,社会制度などに立脚した議論や技術が多くなってくる.論文を執筆していても,日本語で書かれた国内の精度や文化を前提とした論文を参照することが多くなる.これまで英語論文を参照することが多かっただけに,このあたりは未だ戸惑っている.

 

研究プロポーザル,査読付論文

大学教員の仕事を始めてみて,自分の名前で研究プロポーザルを書けることの喜びを感じたのと,ほんとうに遅ればせながら,論文を書くということがアウトプットとして一番重要視されている,ということに気付いた(こんなことを書くのは研究者としてほんとうに恥ずかしいことなのだけれど).ということで,2010年にこちらに来てから本日までに,科研費(2回)を含めて6本の研究プロポーザルを書いている.うち4本は落選,2本が結果待ちの状態である.また,論文誌に2本論文を投稿し,1本は不採録,1本は連絡待ちの状態である.いい成績とはいえないけれど,なんとか2012年には,形となる成果を出してゆきたいと思う.

 

今年の出張

幸いにも,今年は以下のような出張機会があり,その機会を利用して様々な方と交流させて頂いた.出張時に,一緒に食事などしてくださった皆様,ほんとうにありがとうございました.普段接点がないと,どうしても自分の感覚が例えば情報産業で実際に働いている方の感覚とずれていってしまう.こういう機会に話をさせて頂けるのは,本当に有り難いことです.

  • 3/11〜 東京 Web時代のGIS技術勉強会
  • 5/24〜 千葉 日本地球惑星科学連合2011年度連合大会
  • 7/14〜 青森 日本モビリティマネジメント会議
  • 9/8 大阪 鳥取大学ビジネス交流会
  • 9/16 東京 鳥取大学ビジネス交流会
  • 9/17〜 中国・北京 Ubicomp2011
  • 10/22 広島 第62回 電気・情報関連学会中国支部連合大会
  • 11/10〜 東京大学空間情報科学研究センター シンポジウム CSIS DAYS 2011
  • 11/12 大阪 FOSS4G Osaka
  • 11/26〜 イタリア・ベネチア

 

震災と距離感 

2011年を振り返るにあたって,書かなくてはいけないけれど全く書けないのが,震災や原発関係のこと.3月11日に自分はたまたま東京にいて,強い揺れ(もちろん東北ほどではない)やその後の帰宅困難,都心部の通信状況などを経験したのは,忘れられない体験である.その日の夜に,古橋さん( @mapconcierge )が司令塔のように働いて,OpenStreetMapの更新などその後のsinsai.infoにつながる動きをリアルタイムに見れたのも得がたい経験だった.一方で,自分がこの手の即応性,臨機応変な働きを求められるプロジェクトに参画するのは(色々な意味で)困難である,と思い悩む日々でもあった.

 

テレビから流れてくる震災の映像にはほんとうに強いショックを受けていて,今でも,当時の映像を出来ることならば見たくないと思っている.NHKスペシャルなど,その後良質なドキュメンタリーが作られているのは知っているのだけれど,正直,まだ,見れる気がしない.ACやJR九州のCMさえ見るのがちょっとつらい,という感じ.

 

多分多くの人がそうなのだろうと思う.多くの人が,なにか,自分に出来ることはないだろうかと思い,悩み,動いたのだと思う.そうした中で,自分自身は,遠く離れた鳥取で,ガソリンに困ることもなく(ペットボトルの水と単1電池の入手はしばらく困難だった),日常を送っている,というのがうまく受け止められなかった.停電であったり,省電力であったり,放射線であったり,卒業式の中止や入学式の延期であったり,神奈川にいたときの知人,友人や先輩,後輩が感じている困難は,鳥取では全く影響はなかった.被災者の苦労は想像を超えていただろう.そんな中で自分が普段通りの生活をしていることを,どう理解していいのか,戸惑うばかりだった.

 

当時,研究成果をまとめる論文を書いていたこともあり(それは,自分の立場で強く求められていることでもあった),Twitterなどで見られた,様々な震災復旧への貢献を横目で見ながら上の空で論文を読み書きしつつ,ほんとうに自分が何をするべきか,心が定まらない日々を送っていた.

 

正直,震災をどう受け止めるべきか,それに対して,自分は何が出来るか,どうするべきか,未だによくわからないまま目を背けている.多分この問いは,まだしばらく抱え続けることになるんだと思う.

 

2011年を境に,日本の社会の価値観,考え方は大きく変わるだろう.例えば,放射性物質に対する子供を持つ母親の反応が,Twitterなどの上で可視化され,ひとつの勢力を形作るようになっている.年齢の高い男性中心の価値観とは大きく異なる価値観が,次の社会の姿を基礎付ける潮流のひとつになりつつある.Twitterなどではそうした動きを強く感じるとともに,3月11日を実体験における節目とはなかなか感じられない鳥取での感覚と,首都圏を中心とした感覚とがこのあと大きくずれてしまうのではないかというのが心配のひとつである.

 

2012年の抱負 

まずは,研究を進めるチーム作りを引き続き進めてゆきたい.研究方針やいい論文のあり方など,中心的な価値観を共有しながら,活発な議論が出来るチームを,学生とともに作ってゆきたい.そして,引き続き鳥取のバス情報システムの価値を高め,実用性とともに,挑戦的なサービスを常に実現しているという評価を得られるようにしたい.他地域へのアピールも進め,新しい技術のテストベッドとしての価値なども認めた頂ければと思う.

 

 

ところで地図は? 

鳥取に来てから,なかなか地図技術そのものに関われなくなっているけれど,「Web時代のGIS技術」という問題設定は今も有効で重要だと思っています.地図だけでなく,位置情報,位置適応性があらゆるサービスの重要な要素となる中で,アプリケーションプラットフォームとして進化を進めるWebの,位置や空間情報への対応は更に数段進歩しなくてはならないと感じています.今後も引き続き議論に参加出来ればと思ってます.

 

とはいえ,自分が今進めているような研究こそ「次の地図だ」と思っているのは事実です.地図を,「地理空間やその上で起こっている現象を解釈することで,自分自身も何らかの行動を起こす人を支援する情報」と定義するならば,バス位置や時刻表も地図(空間情報)だし,経路探索結果も地図の一種なのです.このあたりは,自分の中では自然に連続した研究を進めているつもりです.