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niyalistのブログ

東京大学 生産技術研究所でITと公共交通について研究している伊藤昌毅が、日々思うことや研究のことを書きます。

Web系エンジニアこそ交通分野を目指すべき5つの理由

伊藤昌毅と申します。blogご無沙汰しております。
IT分野の人間のつもりですが、ここ数年公共交通に関わっておりまして、そろそろ機が熟した、というかむしろ今を逃すと手遅れになりかねないと思っているので、Web系エンジニアこそ交通分野を目指すべき!と力説させてください。

 現在、ITの人間は交通分野では部外者です。しかし、Uberに代表されるようにIT、特にWeb発の技術やカルチャーはこれから交通を大きく変えてゆくと思っています。変化はユーザの方に先に現れていて、車に乗る時はまずスマホで渋滞を調べたり、カーナビがあるのにスマホのナビを使ったり、電車に乗る時は経路を調べたり、遅延や事故の時はまずスマホで状況や代替経路を調べます。

 それでは、交通サービスを提供するの側が、そんなユーザの期待に応えられるようになっているでしょうか。残念ながら、今は交通手段や事業者ごとに情報も課金も分断され、何かを調べようにもいくつものアプリやウェブサイトを渡り歩く必要があります。速報性を求めるならTwitterの検索結果が一番速かったりします。

 今、ITを軸に、交通サービス全般を組み立て直す必要があると感じています。自動車、鉄道、バスなど、様々な交通に対して一貫したユーザ体験を提供すること、ユーザの振る舞いから問題点や需要を見抜き継続的にサービスを改善すること、ITを柱に置いたとき、ITだからこそ作り出せる交通サービスってあると思います。そして、そんな中でも、特に今活躍されているWeb系のエンジニアこそが、その経験や開発手法を携えて交通系を目指し、新しい考え方で交通サービスを作り替えてゆくべきだと思うのです。

1. ユーザ視点の先輩はWeb系

 交通分野の学会などでは「サービス」とか「カスタマー」「ユーザー」というような言葉を聞いたことはほとんどありません。これまでの土木は、作る人目線、役所目線の発想がほとんどでした。しかし考えてみれば、道路も鉄道も、利用者ありきのサービスです。どれだけ利用者の需要や期待に応えているか、満足して頂けているか、そこを目指さないとよい交通は作れません。

 この点で、Web分野は大先輩です。Web分野でUI/UXが言われるようになって何年経つでしょう。ユーザの動きを全てデータ化し、データに基づいてサービスを評価し進化させる、それが当たり前となって何年経つでしょう。スマホやiBeaconなどの技術進化で、より密にユーザの情報を得、より早いサイクルでサービスの改良と評価を繰り返すのが当然になっています。

 IoTがキーワードとなり、iPhoneAndroidがその機能を拡張させるように、これからスマホと自動車は一体化してゆきます。鉄道やバスの情報化も進み、スマホ経由で様々な情報にアクセス出来るようになるでしょう。ではその舞台の上で、ユーザ視点に立ったサービスを構築できるのは誰でしょうか?私は、今のWeb系エンジニアに他ならないと思っています。 

2. ソフトウェア技術の挑戦は交通分野にこそあり

 技術的に挑戦できる仕事がしたいと願うWeb系エンジニアは少なくないでしょう。これから、IoTやビッグデータ機械学習のような最先端技術、シェアリングエコノミーのような先端のビジネスモデルが、交通分野を牽引していきます。あらゆる乗り物がネット接続され、その位置や状況がリアルタイムにデータ化され、それを視覚化したり分析したりして、問題を発見し、素早く交通システムを改良してゆく。様々なデータ分析手法が研究されており、あとは実用化を待つだけになっています。Webの中で行われてきた素早いサイクルでのサービス改良が、今や実際の交通を対象に可能になりつつあります。そして、自動運転技術の実用化を目指して、ますますITの挑戦は続くでしょう。

 そうは言っても、いきなり明日から道路や線路を引き直すことは出来ず、せっかく問題を見つけてもPDCAサイクルを回すのは難しいと思うかもしれません。しかしスマホの浸透で、かなりのところまで人の交通行動に直接働きかけることも可能になりました。例えば、オンラインカーナビの経路を書き換え、交通を分散させ渋滞を軽減する、鉄道の検索結果の順番を変えることで、分散乗車を実現するなども可能かも知れません。エンジニアが開発したアルゴリズムが、現実の人の行動を変えてゆく時代は、もう目前なのです。

3. データや専門ソフトが使えるようになり参入障壁が低くなった

 交通に関連したサービスを構築したくても、必要なデータが手に入らないと思っていませんか?例えば道路地図なら、Wikipediaのような手法で作られた OpenStreetMap があり、地図データとして自由に使えますし、カーナビを作った事例もあります。公共交通分野は、時刻表や路線図データのオープンデータの整備が進みつつあります。これについては、私も海外の事情をレポートしていますが、日本にもこの流れは入ってくると思っています。

opendata - 公共交通オープンデータの現在 ロンドン編 - Qiita

opendata - 公共交通オープンデータの現在 アメリカ編 - Qiita

 道路や交通のデータを視覚化、分析するツールも、以前だったらとても高価だったような物が 、現在は同等品をオープンソースとして手に入れられます。GISという地図を表示したり分析したりするソフトウェアには、QGISという定番のオープンソース製品がありますし、データ分析に使うRやPythonなどもオープンソースです。ナビタイムジャパンによる交通データの分析事例も、ほとんどがオープンソースで作られていると聞いています。

4. 人と社会に貢献できる

 交通は、あらゆる人の生活に必須であり、 まちづくりの要でもあります。よい交通サービスがある所に人が集まり、町が発展してゆきます。使いやすい道路網がある所に、オフィスや生産拠点が発展しますし、全ての人に住みやすい町を作るには、公共交通の充実が必須です。そんな胸を張れる仕事に、ぜひ自分の技術で貢献したくないでしょうか。

 ITによる交通の効率化は、町の形を変えます。カーシェアリングやライドシェアなどが一般的になれば、交通量や駐車場も減り、その分歩行者に優しいまちづくりが出来るでしょう。どこでもシェアサイクルが使えるようになれば、バスや電車で安心して街の中心部に出られ、ちょっと足を伸ばしたところにあるお店にも気楽に行けるようになります。帰りには、駅前で一杯お酒を飲んでゆけます。交通は、私たちの街を、生活を変え、豊かに出来るのです。

5. 地方再生の要はITと交通との融合にあり

 徳島県神山町が注目を集めたり、高知に移住する人が出てきたり、株式会社たからのやまが話題になったり、IT、Web系でも感度の高い人は、今、地方に目を向けています。何もなく、衰退の一途のように見える地方ですが、視点を変えると、人間らしい生活を取り戻した、豊かさのきっかけもたくさん眠っています。私自身も「東京にいて東京を見ながら東京のためにモノを作っていても世界と戦えない」と思って5年前に鳥取に移り、そこで交通に目覚めました。その頃車載のスマホで作ったバスロケーションシステムが今も使われていますが、小さな町の、Google Mapsでは拡大できないような道を走るバスの位置が、リアルタイムに自分のスマホまで届く感動は忘れられません。

 現在、政府はUberのようなライドシェアを公共交通が乏しい地方に限り特区として認めることを検討しています。Uberの是非はともかく、現在、日本の地方は、少ない人的資源を効率的に配分しないと、生活基盤の維持すらままならない状態になっています。これは実は、ITの得意技です。オープンソースクラウドソーシング、シェアリングエコノミーなどの形で、これまで難しかった人や時間や知識や場所を資源として切り売りし、効率的な再配分と付加価値の創造を実現しています。もちろん、その先に血の通ったコミュニティ作りも忘れてはなりません。

 

是非シンポジウムにご参加ください

 ここまで読んで、交通分野に興味を持ってくださったWeb系エンジニアの皆さん、ぜひ、2月12日には私たちが開催するシンポジウム「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」にご参加ください!現在、このようなことを考えていても、受け皿となるようなIT系交通企業はほとんどありません。今回のシンポジウムでは、ユーザと交通を繋ぐ重要な立ち位置にいる乗換案内サービス事業者や、地域コミュニティで活動されている方などをお呼びし、大きな方向感を共有することを目指しています。乗換案内事業者は、ライバルであるジョルダン、ナビタイム、ヴァル研究所(駅すぱあとYahoo!乗換案内の中の人)が揃うのも画期的です!是非、このシンポジウムを出発点に、ともに新しい交通サービスを立ち上げてゆきましょう!