沖縄の交通を「見える、使える」へ! :Okinawa Open Data Challenge 2021 に参加した
2021年11月に沖縄県宜野湾市で開催された、Okinawa Open Data Challenge 2021というイベントに参加しました。これは、主に公共交通のデータの活用、可視化を行おう!というイベントで、ハッカソンともアイデアソンとも違う、でも参加者の多くがプログラミングやGISなどを駆使して公共交通のデータに触れるというこれまでなかった形のイベントになったと思うので、ここに記録を残します。
イベント概要
プレイベント
- 日時: 2021年11月6日(土) 13:30〜17:00
- 場所: 宜野湾ベイサイド情報センター
- 参加人数: 15名
メインイベント
- 日時: 2021年11月18日(木)9:00〜17:00
- 日時: 2021年11月19日(金)9:00〜17:00
- 場所: 沖縄コンベンションセンター
- 参加人数: 16名
- ResorTech EXPO 2021 in Okinawa の一環として実施
開催の背景
沖縄県では、2018年度より観光2次交通機能強化事業として県内の公共交通(主にバスや船舶)のデータ整備を進めており、2020年初頭までに一部の主要バス事業者を除くほぼ全てのデータ整備が完了、Google Mapsなどへの掲載を実現しているほか、OTTOPというサイトを通してGTFS形式のオープンデータとして公開しています。これは、沖縄県から受託した沖縄オープンラボラトリが地域の公共交通事業者とともに運営しているもので、現在はアプリの開発などにも用いられているほか、コロナ禍で頻繁に減便が行われていた折にも、それに追従した情報発信を続けるなど、高い品質のデータを公開しています。
なお、私もこの観光2次交通機能強化事業には当初から関わっており、オープンデータ整備の意義などをお伝えしたほか、定例の委員会にも座長として参加しております。
開催にあたって考えていたこと
今回のイベントに関して、主催者からは、「公共交通データのビジュアライゼーションをテーマにするハッカソンを開催したい」という相談を頂いておりました。アプリ作りをゴールとするハッカソンと比べ、データの可視化はよりデータそのものからの気付きや学びがより多くあるはずで、いい試みだと感じましたが、その反面、技術的な難易度は意外と高く、参加者が満足する体験が出来るか不安を感じておりました。少し突っ込んでデータを処理しようとすると、技術的な難易度は一気に高まりますが、私自身がどこまでサポート出来るかも確証がありません。また、やりたいことが少し違うだけでツール選定や必要な技術なども異なってきます。主催者側は「人を集めてデータを渡せば何かは出来るだろう」という感覚だったと思うのですが、私自身は、丁寧に事前準備を行わないと、イベントが成り立たないだろうという懸念を伝えておりました。
プレイベント (11月6日)
チームビルディングとテーマを議論するプレイベントが、11月6日に開催されました。この日は、公共交通のデータ可視化に関して「夢を広げる話、オープンデータの大切さの話」をして欲しいというリクエストを受けておりました。
ということで、「データビジュアライゼーションをきっかけに沖縄の交通の「次の一手」を考えよう」という題で話をしてみました。実は私自身、データ分析を中心テーマで話をすることはほぼ初めてです。日頃講演のスライドは過去のスライドを活用することも多いのですが、今回はほぼ書き下ろしのスライドになりました。
発表資料はこちら。
www.slideshare.net
講演では、データ→インフォメーション→インテリジェンスというデータ分析の一般的な枠組みを踏まえながらデータ分析入門のような話をしたのですが、途中、沖縄の交通データを可視化した地図を実際に見せるなどしたので、公共交通データの具体的な姿や可能性についてもイメージを持って頂けたと思います。データを見せるなどしてたため、当初の講演時間をだいぶ越えてしまって申し訳なかったです。
このあと、各自でテーマを考え、最終的に「学生」「生活」「観光」という、各6-8人程度の3チームに分かれてディスカッションを進めました。地元の学生や企業、行政などで公共交通に関わっている方々、東京から来た交通データや地図データなどに関わる方々などの混成チームです。データを使って何を知りたいか、何をやりたいか、各チームごと活発な議論がありました。
最後にチームごとに取り組むテーマを発表してこの日は終了。私と、 Code for Kanazawaの福島健一郎さんから、各チームにコメントをさせて頂きました。
ワークショップ(メイン)(11月18日-19日)
本番となるワークショップは2日連続開催です。前回とほぼ同じメンバーが集まり、各チームが簡単にテーマ発表を行うと、あとは黙々と作業開始です。
学生チーム
「学生」チームは琉球大学の学生が中心となって大学周辺の公共交通について考えるチームです。大学周辺のバスの使いにくさを可視化したいということだったので、それならばある地点間の検索を少しずつ条件を変えて行って、所要時間をグラフ化してみるといい、とアドバイスしてみました。今、Google Mapsに沖縄のほぼ全ての路線バスデータが掲載されているので、こんな使い方も出来るわけです。
ということで、大学から程近くの大規模なイオンへの所要時間を10分刻みでグラフ化したのがこれ。タイミングが良ければ20分から30分弱で直接行けるのに、多くの時間帯では近くのバス停が使えず、所要時間も50分前後掛かってしまうことが分かります。
このチームは、その後QGISというソフトを使って更に大学周辺の公共交通の実態を探っていくことになります。
生活チーム
「生活」チームは、公共交通と自家用車のバランスのいい利用を目指すために、パークアンドライドというテーマに取り組んでいました。Webから駐車場データを用意し、バス停の位置情報と距離に基づいて紐付けることで、「車を駐めてバスやモノレールに乗る」ことが実用的に出来るバス停を探し出します。このチームは技術的な挑戦にも積極的で、Webスクレイピング、Excelによるデータ処理、JavaScriptによるデータ処理、kepler.gl を用いたデータの可視化なども行っていました。
観光チーム
「観光」チームは、「公共交通を利用することで、実はホテルや市街地から離れた飲食店も利用出来るのではないか」という仮説に基づき、観光客の行動範囲を拡げる提案に取り組んでいました。このチームでは、沖縄の主要なホテルや飲食店街のデータとともに、QGISのGTFS-Goというプラグインで「午後8時以降のバス路線と本数」を可視化し、どのような行動が可能になるのか、どのような提案をするかを議論していました。
会場の様子など
会場となった沖縄コンベンションセンターは、宜野湾市の海岸沿いにあるいくつもの建物が連なる大規模な展示施設です。今回は、リゾート+テックでリゾテックというテーマを掲げ(この用語が一般に定着しているかは知りません)、コロナ後の観光を見据えた、オンラインオフライン併用のイベントを開催しているようでした。
昼食時には、会場に何台ものキッチンカーが並び、何を食べるかを選ぶのも楽しい体験でした。
私も、リゾテックエキスポの参加者向けに「サービス化に向けて進化する公共交通と沖縄のポテンシャル」という講演を行いました。こちらは、MaaSやオープンデータなどの一般的な話や、OTTOPによるデータ整備など沖縄の現状を紹介する、一般向けの講演です。アーカイブ配信を行っているので、12月12日までならリンク先から講演を聴けるようです。
www.slideshare.net
発表会
2日目15時過ぎからは、各チームの成果の発表会です。机を並び替えて、全員が顔を向き合えるように(そして、私と福島さんは囲まれる形に)なりました。
学生チーム
学生チームは、「琉球大学周辺にどのくらいバスが通っているのか」、そして果たしてバスを使って大学に通えるのかをデータ分析を通して調査し発表しました。
国勢調査の結果から若者が多いエリアを探しそこから大学へのアクセスを調査すると、多くの場所で十分なバスの便数がなく、バスで大学に通うのは現実的ではありませんでした。この発表資料の図は、QGISと国勢調査のデータ、路線バスのGTFSデータを組み合わせて作図しています。
また、近隣の商業施設にもバスでは行きにくいなど、バス利用者には不便な状況が明らかになりました。琉球大学では今学生向けの駐車場の有料化などが検討されているようですが、こうした分析から、単に学生の自動車利用を抑制するだけでなく、バス会社も巻き込んだ交通改善プロジェクトが必要であるという状況をあぶり出しました。
観光チーム
公共交通を利用することで、市街地から離れた飲食店の利用を活性化することを目指していた観光チームでは、最終的な成果を「沖縄飲み屋街 終バスマップ」という形にまとめました。
例として、那覇バスターミナルに戻ってくるための終バスはこの図のようになります。鉄道がない沖縄では、各地のバスターミナルを繋ぐ形で幹線路線が走っているのですが、その路線上に位置する場合ならば、比較的遅い時間でも那覇に戻ることが可能です。例えば沖縄市には夜10時近くまでいられるのですが、名護や恩納村は20時頃が最終となります。この他にも、恩納村のホテルに宿泊している観光客向けの終バスマップなども作成しています。
このチームでは、もう一つぎのわんヒルズ通りという飲み屋街からの終バスマップも作成しています。下図のように、21:00に出発すれば比較的多方面に帰宅可能なのですが、30分遅くなると帰宅出来る方面が限定され、22:30になるともうバスに乗れなくなります。
このチームは、地域ごとの終バスという分析結果をどのような形でまとめるのが良いか試行錯誤していた印象があります。最終的に観光客に対するガイド、という形になりましたが、この他にも店舗を出店する経営者向けの資料、という議論もありました。行政やバス事業者に対する提案という形もあり得たでしょう。最終的な「終バスマップ」は、提案が明確に伝わる、いい形になったと思います。
個人的には、「鉄道がない」という状況から想像していたよりは終バスが早く、夜遅くまで比較的自由に移動出来る大都市の生活とはかなり違った移動をせざるを得ない、という実状を痛感しました。「飲み屋から帰る」という具体的なシナリオを設定すると、時刻表データが急に意味のあるものに見えてきて、色々な解釈が可能になるというのも面白い感覚でした。
生活チーム
パークアンドライドの利用促進を目指していた生活チームでは、最終的なアプリケーションのイメージをAdobe XDを使ったモックアップとして提案するとともに、keplerにバス停、民間の駐車場、公共施設や商業施設の駐車場などを可視化しました。地図の縦棒が駐車場の位置とその容量を表しています。駐車場については、データが少ないためWebスクレイピングなどを行っていましたが、本当は知りたい空き状況などのデータは公開されていないためデータを得るのに苦労していました。
このチームはまた、イベントの会場となった宜野湾市から沖縄県庁を往復する場合の時間と費用のシミュレーションを行いました。沖縄県庁は那覇市の繁華街にあり、買物や観光など様々な時間を過ごせます。そこに3時間滞在する場合に、一番早いのは自動車、一番安いのは自転車なのですが、これらを組み合わせて、自動車やタクシーでゆいレールの駅に行きそこでモノレールに乗り換える場合など、様々な想定で必要な時間を算出しています。
ここでの意外な結果として、3時間分の県庁での駐車料金などを加味しても、自家用車+バスの組み合わせより自家用車だけで行ってしまった方が安く早いということなどが挙げられていました。
このチームが目指していた、パークアンドライドによる移動の最適化を実現するには、まだまだデータが足りず、また自家用車と公共交通を組み合わせた経路探索は技術的にもまだ難易度が高いということで、パークアンドライドの促進がまだ容易ではないことを実感しました。
福島さんからは、タクシー運転手から聞いた話として「沖縄のお年寄りはバス停までタクシーで向かい、そこからバスに乗ることがある」という事例を紹介されていましたが、データ分析に頼らなくても、ひとりひとりが工夫してバスやタクシーなどを使いこなしているのも確かです。
数年前に延伸したゆいレールの新しい終点、てだこ浦西駅は、周囲に市街地などがなく、巨大な駐車場を併設することでパークアンドライドの利用を狙っているように思えたのですが、実際、沖縄のどのエリアの人やどのような種類の移動に便利な施設となっているのでしょうか。個人的にも調査してみたくなりました。
データを見ながらざわざわする会
各チームの発表が終わったあとに「データを見ながらざわざわする会」という時間がとられました。これは、各チームが使っているGISなどのデータを見て「ここの地図を拡大してみたい」「このデータを重ねられないか」など興味をぶつけ、より深くデータや地域を理解する時間です。地域の事情に詳しい参加者から質問が飛びだし、それに答えているうちにすぐに時間が過ぎていきました。
例えばこちらの図は観光チームが使っていた午後8時以降の運行頻度図です。夜にバスがどれだけ走っているかが直感的に理解出来ます。こんな図が GTFSと GTFS-Go を使うことで簡単に作図出来るのです。
私も、このイベント期間の中で自分が行っていた取り組みを紹介しました。OpenTripPlannerと呼ばれる、GTFS形式の公共交通データを使ったオープンソースの経路探索システムがあります。これを稼働させ、琉球大学から沖縄県内の無数の地点に向けて経路探索を行う、というプログラムを空いてる時間やホテルなどで作成していたのでした。「学生」チームは限られた場所へのアクセシビリティをGoogle Maps検索で調査していたのですが、これを総当たりで行おうという考えです。
中央にある琉球大学から、那覇市や沖縄市、名護市など県内全体に網羅的に検索を行い、必要な移動時間、待ち時間、乗り換え回数などを調べています。直行で行ける場所もあれば、乗換が必要なところも多く、大学が所在する西原町の中心部への移動には3本のバスを乗り継ぐ必要がある(多分歩いた方が早い)ことも分かります。
ここまでで2日間のワークショップは終了。最後にひとりひとりが気付きや学びなどをコメントし、記念撮影を行って、無事2日間の日程が終わりました。
感想やまとめ
正直、最初はこのイベントはうまく行かないだろうと思っていました。やりたいことを実現するためにはいくつものデータやツール、技術が必要で、時間も掛かります。時間内に達成感が得られるところまで到達するのは困難だろうと思っていました。今回の何が良かったのか、どうしたら他の地域にも展開出来るのかなどを、いろいろと考えています。
「データを見ながらざわざわする会」がとてもよかった
そう。そもそも、みんなでデータに向き合いながらああでもない、こうでもない、と意見を出し合い、一緒に何かを考える場、こういうのをやりたかったんです。ただそれを実現するためには、地域やデータに対する一定の共通理解が必要だし、データそのものを自在に扱う技術も必要。2日間のワークショップを経て、それぞれのやり方でデータに向き合い格闘した経験を積んだからこそ、これが出来たのだと思います。ファシリテーターの石垣綾音さんが的確な質問を繰り出すのも良かったです。
QGISは意外と誰でも使えるんだ
QGISはオープンソースのGISソフトであり、誰でも無料でダウンロードして使い始めることが出来ます。機能も豊富で空間的なデータ分析には十分すぎるほどであり、使いこなせば便利なのですが、GISという概念自体がそれほど一般的ではなく、始まる前はQGISのレクチャーだけで時間が過ぎてしまうのでは、と心配をしていました。
しかし実際には、各チームに経験者がいたり、YouTubeなどにわかりやすい説明が載っているなどで、きっかけさえあれば思ったより簡単に使い始められるようでした。QGISに関しては、今回のイベントの中でインストールした人が10名近くいたかと思います。
背景地図の設定、国勢調査データの読み込みなどもいちいち大変(特に国勢調査データ読み込みはバッドノウハウが多すぎるので自分でも忘れないようにドキュメント化している)んですが、しっかり乗り越えたり、ラボの又吉さんがさりげなくGeoJson形式のデータを事前に用意していたりなどでだいぶ助けて頂きました。
GTFS-GOありがとう!
今回のイベント成功の陰の立て役者は、GTFSをQGISに読み込むプラグイン「GTFS-GO」でした。北海道でオープンソースGISなどを扱っているMIERUNEが開発し、2020年末に公開され、その後、(株)トラフィックブレインなどの貢献により運行頻度図の作図機能などが強化されたことで、GTFSをGIS上で扱う最強のツールになったと思います。このツールのおかげで、GTFSを「データ」として活用する、という話にリアリティが出てきました。今回のイベントに間に合って、ほんとによかったと思います。
データを扱う本職でも、データの作成から活用をトータルで体験する機会は少ない
終了時のコメント発表では、「これまでも経路探索の企業でデータを扱っていたが、こんなに皆が経路探索が好きだとは思わなかった」「これまで自分は分析結果だけを発注する立場だったが、今回の体験を通して見方が変わった」というようなコメントがありました。
今回の参加者には、公共交通や観光データの作成や処理などに関わる専門家が何人もいらっしゃいました。しかし、今回のように自ら決めたテーマに基づいてデータを集めたり作成し、可視化や分析ツールを自分で選び、仮説を立てて分析を行い、その結果をまとめて発表する、というようなトータルでの体験をされていた方は少なかったのかも知れません。
沖縄で、また東京で実務を担っている方がしっかり2日間参加するのは、職場での調整なども大変だったかもしれません。しかし、そういう方だからこそ、今回のような経験が直接日々の業務を考え直したり、より理解を深めるきっかけになったかな、とも期待しております。発注者、受注者、ライバル企業などの壁を越えてチームを作れたのも良かったですね。
集計データではなく個々のデータだから、ひとりひとりが利用する状況と全体の両方に目配せ出来る
データ分析の醍醐味でもあり難しさでもあるのが、特定の個人の特定の状況を考える虫の目と、エリア全体を俯瞰的に捉える鳥の目を行ったり来たりしながら仮説を立て、検証するところだと思います。俯瞰で捉えながら違和感を発見し、個別の事象にしっかり迫ることが出来ればいいのですが、実際は中々難しいのです。
GTFSデータの良い点のひとつは、それが集計データではなくあくまで具体的な時刻のデータであるからこそ、ひとりひとりの状況(例えば、終バスを気にしながら飲んでいる人)にフォーカスしてデータを解釈出来る点です。これが、単にバス停の位置と運行本数のような集計データだけでは、ここまで具体的な想像は出来ません。
GTFSデータを用いたことで、このような寄りと引きの自在な切り替えを、多くの参加者が自然に実現出来ていたと思います。
地元の人が活躍していたのはすばらしかった
今回のイベントの立役者と言えば、ラボの又吉さんでありファシリテーターを務めた石垣綾音さんでしょう。それぞれ、沖縄にルーツや拠点を持ち、地域をしっかりと引き受ける覚悟を持ちながら、風通しの良さと確かな技術力を持った方々です。困ったことがあると、だいたい又吉さんが登場して、事前に用意していたデータや仕組みが出てくる様子は感動的でした。石垣さんには、ファシリテーターを務めながら参加者としても「学生」チームに入ってデータ分析などを牽引され、頼もしさを感じていました。
また、県庁や市役所で観光などの実務に携わっている方、地元のコンサル事業者など地域の土木や交通を担う専門家が何人も参加されていたのはとても素晴らしい光景でした。地方なので、どうしても人が限られ、同じ顔ぶれが同じような関係で仕事をすることがずっと続く、という事が起こりがちです。こうした業務からちょっと離れた場で「発注者」「受注者」という関係を外して一緒のチームになって、業務の枠がない課題に対して実力を発揮し合えたのは、とても良かったと思います。
地域を担っている方から「東京ではどう考えられているんだ」「他地域にはどういう事例があるんだ」というような質問がほとんど出てこないのもいいですね。公共交通オープンデータの整備や活用はまだ始まったばかりなので、地域の実情を踏まえながら、それぞれの地域でベストなやり方を探るしかないのです。自分のものとして引き受け、自分で考えることが当たり前になっている感じがあります。
他の地域でもやってみたい
終わってみて、難しいと思っていたイベントが形になったことで、私としても、是非ほかの地域でもこのようなイベントを実現したいと考えるようになりました。今回のイベントは「ハッカソン」に近い気がしますが、アプリ開発やプログラミングに主眼を置かず、データの可視化や分析にフォーカスしたというところがこれまでになかったと思います。一体何と呼べばいいのでしょうか。
今回の沖縄の例では、地域や交通に問題意識を持っていたり、データに関する経験やスキルを持っている人が集まることで、チーム内でも教え合い、学び合いが発生し、各チームそれぞれがデータ分析やデータ可視化などに取り組めたと思います。もちろん、ラボの又吉さんはじめスタッフの強力な支援もとても重要でした。
今後他の地域でも展開するとしたら、どのように企画し、どのような方に協力をお願いするのがいいのでしょうか。GTFSのような最近になって登場した公共交通データについては、正直、まだ使いこなせる人材は多くないというのが実状だと思っています。そのような状況を乗り越え、多くの参加者に実りのあるイベントを実現する秘訣を、もう少し探りたいと思っています。
2020年を振り返る
コロナ禍
2020年が終わろうとしていますが、正直なところ今年は、コロナ禍による大きな環境の変化に意識や考え方、習慣や日々の過ごし方など色々なものがついてこれず、戸惑っているうちに1年が終わってしまったような感覚さえあります。
コロナのインパクトは私個人というより私が関わっている公共交通の業界においてとても大きく、多くの事業者の経営基盤を直撃し今も回復の見込みが立っていません。公共交通業界に関わろうとしているとは言え、所詮は他所者である自分が安全圏から何かを言うことにはためらいがあり、それもあって、この一年は自分は裏方に周り、様々な現場の声を届け、必要な議論の場を作ることに徹しようという意識が強くありました。
ITによって、バスを、公共交通を、そして交通全般をより良いものにしていこうという目標は、私にとってはゆるぎのないものです。実際、MaaS、CASE、自動運転などITが成し遂げた技術革新はコロナに関わらず世界の交通を大きく変えつつあります。そこに日本が遅れない、先導していくのだという意識は大切ですが、根本的に移動需要が大きく落ち込み、そのことが公共交通事業者の経営に直結している日本の状況で、目標だけを唱えて現実から乖離してしまったら、然るべきタイミングが来ても何も手を打てないでしょう。
くらしの足をなくさない!緊急フォーラム
私に出来ることをやろうとする中で、多くの方を巻き込んだ動きになったのが、4月と5月にオンラインで開催した「くらしの足をなくさない!緊急フォーラム」でした。全国の多くの交通事業者の方などに登壇いただき、当時まだあまり議論されていなかった公共交通の現場の声を届け、まずは現場の安全のために、そして経営の維持のために支援が必要であること、国や自治体に要望するだけでなく、我々も連携して支援する意思があることなどをアピールしました。議論の内容は国会でも取り上げられ、その後の支援の拡大に多少なりとも貢献できたと自負しています。
このイベントに私は登壇はしておりませんが、企画やYouTube配信の実現には深く関わっております。4月初めの「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム」の企画ミーティング(本来は10月開催のイベントについて相談していた)でオンラインイベントの開催を提案し、20日程度の準備期間で登壇者を調整し告知も行い、その他諸々の準備を済ませた上で開催に至っています。初めての試みではありましたが、オンラインならではの北海道から沖縄まで全国を(5月の回はオーストリアまで!)繋いだ大規模なイベントとなり、オンラインならではの連携の仕方、メッセージの伝え方を公共交通業界を巻き込んで経験できたと思っています。ITを含め様々な分野を見渡しても、このイベントは比較的早い段階で実現にこぎつけた大規模なオンラインイベントでした。こうした経験を公共交通業界として共に積めたとしたら、私としても大きな喜びです。
技術的にも、Zoomを使ったオンラインイベントのフォーマットをこの開催を通して作ることができました。イベント開催を提案した当初は、実はZoomとYouTubeの連携機能があることさえ知らなかったのですが、準備ミーティングもYouTubeに配信しながら試行錯誤を積み、初めてのオンラインイベントではありましたが、大きなトラブルもなく最初からスムーズに実現できました。もちろん、多くの方にZoomの操作練習などに付き合っていただいたおかげでもあります。イベントの終了後にはZoomによるイベント開催方法をネットの記事にもまとめました。こちらの記事は今もアクセスがあるので、こうした必要とされている方には自分がまとめたノウハウが少しは役に立っているかもしれません。
オンライン配信をいくつも行なった
くらしの足をなくさない!緊急フォーラム以外でも、いくつかのイベントのオンライン配信をサポートしています。自らが主催者の1人として関わっている公共交通オープンデータ最前線2020、公共交通マーケティング研究会 オンラインセミナー、くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2020の他、UTMobIトークショーやJCOMM緊急会議「交通崩壊を防げ」の開催に当たってはノウハウの提供をしております。また12月に広島で開催された「第15回日本モビリティマネジメント会議(JCOMM2020)」においては、オンラインからの登壇や視聴が可能なハイブリッド開催ということで、準備段階の検討から当日のオペレーションまで協力しております。
自分が関わるイベントをオンライン配信するという試みは2010年ごろから始めており、「Web時代のGIS技術勉強会」というイベントを若狭正生さんに協力いただきながらUstreamで配信していたという経験があります。オンラインイベントの緊急開催というのも、2012年に「iOS6マップを語る夕べ -ジオメディアの鉄人が日本珍百景を切る-」という、出たばかりのApple製の地図ソフトの問題を指摘しながらデジタル地図を考えるイベント(企画:児玉哲彦さん)に出演したことがあり、こうしたことが技術的に可能になってから、10年近く経っているという時代感覚がありました。
その後も、スマートフォンの高機能化や4G回線の普及による動画配信の一般化、YouUberの登場による映像機材の高機能化や低価格化などがあり、オンライン会議や動画配信は誰でも使える一般的な技術になってきたいう認識がありました。自分としても、2018年頃から映像収録、配信に必要な機材などを少しずつ買い揃え、自分が関わる場で利用しながらノウハウを身につけていたのですが、そうした経験がこのタイミングで役に立ったと思います。実は今でも、「録音ボタンを押し忘れていた」「設定を間違えたまま録画してしまった」などなど、映像機器を扱うときは失敗だらけです。人より少しだけ多く失敗を経験していていることが、こうした配信の場で役に立っている気がしています。
なぜ自分がこれだけ配信に関わるのだろう、というのは自分でも謎で、もちろん、マニア的な興味や満足感もありますが、「場づくり」というのが抽象的な概念から「オンライン会議や配信向けソフト、機材を適切に選定し運用すること」というのに意味が変わってきたという感覚を持っています。「場づくり」というのは、従来は人と人との関わり方を設計、調整し、創造的な議論やアウトプットが生み出されるような環境を作ること、というような意味だったと思いますが、リアルで人同士が顔を合わせづらい時代において、人と人がストレスなく言葉を交わし、身振り、手振り、メモ書きや写真、絵などを共有するような状態を作って、さらにその熱量が周囲にまで伝わる状況を作るためには、映像技術的なノウハウも必須になります。この辺りに自分の興味や適性を見出している気がします。
「やっぱり実際に会うのが一番」などと言ってしまう方は今もおられますが、世界的なオンラインへのシフトがこれまで参加が不可能だった方、たとえば地方在住だったり子育てや介護中だったり上司の承認を得られないというような方にも機会を切り開き、好きな時にどこにでも行けるモビリティ強者以外にも参加や発言の機会を作っている点は見逃せません。今後は、このような参加者の存在をどれだけ視界に入れながらイベントを企画運営できるかが重要になってくるでしょう。「ハイブリッド」形式のイベントにおいては、今後特にこうした点への配慮が重要になってくるでしょう。(JCOMM2020においては、この点への配慮が全くできていなかった自覚があります)
人を集められないと熱量を高められない
上述した「場づくり」の話に反する話かもしれませんが、新型コロナウィルスの流行以降つくづく思うのが、これまで自分がいかに「人を集めること」に依存してきたかということです。「GTFSの普及」はその典型で、関係者の皆様に1箇所に集まっていただき、また多くの聴衆も集まるという状況の中で、ある種の熱が生み出され、それが伝搬し反響していったわけです。場の価値や緊張感を高めることで、登壇者からより貴重なお話を引き出す、というのは私がイベントの企画に関わるときには常に意識していたことでした。もちろん、多くの関係者が一堂に会することで顔見知りとなり、色々な話が進めやすくなるというのも大きかったです。これまでやってきた方法が通用しなくなった、というのは予想以上に打ちのめされるものがありました。
一方で、オンラインならではの熱量の高め方があるのも確かです。「くらしの足をなくさない!緊急フォーラム」で実現したように、スピードというのは一つの方法です。タイムリーな企画をスピーディーに実施できるというのはオンラインイベントのメリットの一つです。また、交通費などを考えずに色々な方をお呼びできるのもメリットです。まだやったことはないですが、現場からの中継が入ることで臨場感が高まるでしょう(技術的には大変ですが)。
人を集めることはまだ当分難しそうですが、交通やITに関わる社会課題は待ったなしです。なんとか、これまでのイベントを開催するという方法に代わる熱量の高めかたを考えたいところです。
標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)の更なる普及と見えてきた課題
本年も昨年に引き続きGTFS-JPによるオープンデータ整備が進み、12月31日時点では292事業者にもなるそうです。昨年末の時点で170事業者だったので、相変わらずものすごい勢いでデータ整備が広まっていると言えるでしょう。私が関わった中でも、昨年までほとんど検索が役に立たなかった沖縄において、ほぼ完璧にGoogle Mapsで検索ができるようになったのは大きな喜びで、沖縄におけるバス移動が本当に楽になりました。残念ながら今年はあまり各地を回って直接お話を伺うことができなかったのですが、一つ一つのデータに担当者の苦労やドラマが詰まっていることを忘れてはなりません。頃合いを見て、是非データ整備に尽力された色々な人たちの苦労を伺い、努力を讃え合いたいですね。
一方で今年は、データの更新や品質という問題がクローズアップされた年でもありました。全国の自治体でも、データ整備を当初進めた担当者が交代し、継続の熱量が下がっているという話を伺っています。データ整備を事業者や自治体の業務プロセスに組み込まないといけないですし、また、データからのバス停時刻表の作成など、「業務を楽にするツール」としてのデータ整備を進めなくてはならないと、改めて思うところです。
また、大規模なデータ整備事業の問題点が浮き彫りになった年でもありました。例えば、昨年度の国交省の事業としてコミュニティバスを中心に全国で400近いの地域のデータが作成されたのですが、多くが品質に問題がある上に更新については何も考えられていないものでした。今後これらのデータは果たしてGoogle の審査を通過し、Google Mapsに掲載されるのか?また今後のダイヤ改正の際にデータ更新がなされるのか懸念しております。理解が浅いままデータ整備事業を進めてしまう発注側、問題があることを承知でデータ整備を事業化してしまう受注側の双方に問題があるのですが、このような焼畑農業的な「データ整備事業」はそろそろ終わりにしないといけません。
データ品質が問題になる状況はコロナ禍の中でより顕著でした。急激な利用者の減少に対して多くの交通事業者が運行本数を絞るなど頻繁なダイヤの調整を行っていたのですが、多くの経路検索サービスはコロナ以前のダイヤのままだったり、更新の反映が大幅に遅れるという状況でした。私自身も、「検索で出てきたバスがバス停に行ったら運休だった」という経験をして以来、検索エンジンの信頼性には今まで以上に気を使うようになっていますが、「いちばんあてになるのはバス停に張り出されている時刻表」というのが2020年においても現実のようです。
データの品質は、バスや公共交通の信頼性そのものに直結する問題なので、公共交通業界と検索サービス業界が手を携えて取り組まねばならない問題なのですが、残念ながら現時点では、関係者ごとに認識に差があり、なかなかその機運は高まっていません。それ以前に、自社のデータ品質をしっかり把握できている交通事業者も少ないのが現実です。「田舎のバスは乗る人が少ないのだから、更新が遅れても構わない」と思っている人もいるかもしれませんが、実際には、たまたま出張に来た人が検索結果通りにバスに乗れないと、行動に大きな影響を受けるだけでなく、サービスへの信頼感が大きく低下することになります。
データの問題は、公共交通がネットワークとして機能することを考えると基幹から末端まで完璧であること以外に答えはなく、真にそれを実現するためには交通事業者の業務プロセス自体のデジタル化や交通行政のデジタル化(例えば運輸局への申請のデジタル化)などが不可欠です。データは全ての取り組みの基盤であり、「検索サービスで検索できる」ためだけに整備するものではありません。ぜひ、公共交通においても長期的な視野にたったデータのあり方を考えたいものです。
規制改革推進会議へのインプット
本年は、1月に内閣府規制改革推進会議成長戦略ワーキンググループにて「交通データの標準化・オープン化とその先へ −ITによる交通イノベーションに向けて−」という情報提供をさせていただきました。交通データについては規制改革推進会議でも主要なテーマとして取り上げていただき、7月に発表された答申において「交通分野におけるデータ活用の促進」という項目を明記して頂きました。この中に「g 鉄道やバス等、各交通事業者から国等に提出する申請・届出のデジタル化や機械判読可能なデータの整備について検討を進める。」と書かれているのですが、是非ここは、検討だけでなく実現までこぎ着けたいところです。
www2.slideshare.net
交通政策基本計画の策定
今年は交通政策基本計画小委員会のメンバーに選出頂き、初回の委員会で「IT×交通の時代を考える −交通のインタフェースがITになることのインパクト−」という情報提供をさせて頂きました。この委員会は2021年度からの交通政策の5ヶ年計画を検討する委員会で、このまま進むかと思ったのですが、コロナかを踏まえた大幅な見直しをするということで2月以降検討が一時中断しています。交通の歴史において間違いなく大きな転機となるこの5年を検討する場に加えて頂いているのは、とても有り難いですし責任も重大です。これから再開する議論に貢献できるよう頑張ります。
www2.slideshare.net
技術書典・デブサミなど技術系コミュニティでの発表
昨年から引き続き、ITコミュニティと交通との橋渡しになるような活動を行いました。2月にはDevelopers Summit 2020(デブサミ)にて「ITがモビリティを創る:MaaSに向けた技術とエンジニア像」という発表をし、Web系を中心とするエンジニアの皆様に交通データやGTFSデータの面白さをお伝えしたほか、データを扱うノウハウをまとめたものとして、エンジニアの祭典である技術書典にて「鉄道とバスのデータをハックする2」という同人誌を発表いたしました。自分が、IT分野から公共交通、道路交通など交通に関わるようになった立場として、多くのITエンジニアに交通の面白さ、インフラに関わる面白さを伝えたいと思っています。日本社会の中では、未だなかなか交わらないITと交通ですが、技術の交流、人的な交流の促進をこれからも続けたいと思っています。
日本バス情報協会
これまでのGTFSへの取り組みは、コミュニティ主体、ボランティア主体のものでいろいろな方の自発的な取り組みをゆるやかに束ねたものでした。今これを「日本バス情報協会」という形で組織化しようとしています。関係者の皆様にいろいろと相談している段階ではありますが、2021年2月に協会の設立イベント開催を目指して動いておりますので、引き続きご関心を寄せて頂けるとありがたいです。
自宅環境の整備
3月末にいよいよ大学への出勤も自粛となるだろうとなってから最初に試みたのは、自宅(自室)の環境整備でした。これまでも、家でも仕事ができるようにと部屋や机は確保してあったのですが、がっつり家で仕事をすることは少なく、結果として床にまで本や書類が積み上がり、カメラをオンにしてオンライン会議ができるような状況ではありませんでした。
4月初めに行ったのは、一眼カメラの接続と固定、マイクとマイクスタンドの導入、部屋の大掃除と積み上がった書類、書籍の処分と本棚の整理でした。この後も、スピーカーの購入や窓用エアコンの導入など、環境整備を進めました。処分しにくかった大型のデスクトップPCを捨てるなど、このタイミングがなかったらできなかったと思います。
Webミーティング用にマイクを導入してみた。ちょっと、やりすぎかもしれない。 pic.twitter.com/TLqoMyvQPH
— Masaki Ito (@niyalist) 2020年4月15日
部屋にコロナの窓用エアコンを設置。今年の夏もなんとか乗り切れそう。 pic.twitter.com/ZUEiJkIYEX
— Masaki Ito (@niyalist) 2020年6月17日
「いつでもYouTube配信が出来る環境」を目指したのですが、一眼カメラは適度に背景がボケるため仮想背景なしで外に出してもいい感じになったと思います。我が家は、引っ越したときに独自にKDDIの光回線を引いた経緯があって回線品質も高いので、安定したネット環境やオンライン会議への参加が必要なときには今も自宅から参加することが多いです。2020年らしい環境が構築できて良かったです。
講演の録画を始めた
2020年は、いろいろなイベントなどに登壇、講演する機会が33回あったようです。前半はMaaSなどについての話題提供、5月以降はコロナと公共交通といった話題が多かったです。GTFSデータ整備事業の基調講演も、青森、岡山、山口で行っており、県によるデータ整備事業の後押しも行っております。今年は、こうした講演を録画し、可能ならば自分のYouTubeチャンネルで配信するという試みも行っています。これは情報発信や共有という意味だけでなく、撮影機材を日頃から使って慣れておくという意味もあります。こうした機材は、実際に使ってはじめて気付く問題やノウハウがけっこうあります。自分の講演、つまりいくらでも失敗が出来る場面で経験を積むことで、いざという時に役立つノウハウを身に付けているという感じです。
YouTube配信をはじめた
こうした取り組みを続けていると、YouTuberらしいコンテンツも作ってみたくなります。9月に佐賀に出張した折に自転車で街を散策しながら撮った動画を編集して、佐賀のまち歩き動画を作ってみました。これは、GoProの手ぶれ補正機能にも助けられて、臨場感のある面白い動画になったとおもいます。このあと、同じような撮影を広島と山口で行っているのですが、まだ編集が出来ておらず、公開できていません。YouTuberになるにはまだ努力が必要なようです。
動画コンテンツについては、10月に行われた東京大学柏キャンパス一般公開に合わせて所属している大口研究室のYouTubeチャンネルを開設し、研究に関わる情報発信をはじめました。大口教授がNEAR SIDEの信号とFAR SIDEの信号について語る動画や、柏キャンパスにある実験用の信号機について紹介する短い動画を作ったほか、信号マニアの学生がひたすら信号について語り尽くすライブ配信も行いました。カメラを4台用意した本格的な配信だったのですが、自分は聞き役とカメラのスイッチだけに徹している「誰かを主役にする仕事」という感じで、その意味でもとても楽しい試みでした。
欅坂46の終焉
2020年の話題としてはこれを上げないわけには行きません。2017年以来追いかけ続けていた、欅坂46が、ついにその活動を終えることになりました。2019年2月の「黒い羊」リリース以降新曲を発表できず、今年の初めに、結成以来センターを務めてきた平手友梨奈さんの脱退がアナウンスされ、活動の停滞感が疑いようも無くなった状況での決断はやむを得なかったと言えるでしょう。グループはその後櫻坂46として再出発していきますが、私にとっては、平手さんという1人の天才を中心とした集団のあり方としても興味深く、考えさせられるものでした。夏に公開された映画でも語られていたように、グループの中でも平手さんの存在は突出しており、その1人のパフォーマンスを魅せるための集団、というようにもなっていきます。一方でその状況は平手さんにもグループの他のメンバーにも大きな負担であり、平手さんも、怪我や映画撮影などによるグループ活動からの離脱を重ねながら、最終的に脱退にまで至るのです。
私たちの社会も、今は平均的な教育を受けた平均的な人が支えるものだけではなく、その時々に世界のどこかに現れる突出した天才が作る魅力的で刺激的なビジョンや事業に引っ張られながら、急速にその歩みを早めるものになってきています。例えばスティーブ・ジョブズ、イーロン・マスク、オードリー・タンなどの活躍を思い浮かべれば、彼/彼女なしではある分野において世界は数年以上遅れていたと言うことが出来るでしょう。つまり、突出した才能・天才というものを社会がどう受け止め、その活躍を社会そのものの進歩に繋げられるかが重要になっています。
平手さんの脱退は、天才を受け入れ、受け止め、同じ時間を過ごすことの難しさをあらためて感じさせたものでした。一方で、残された人たちも決して平手さんを拒絶していたわけではなく、大きな刺激を受け、絶望を乗り越えながら自身を変化、成長させ、今に至っているわけです。改名以降の活動はあまり追っておりませんが、その経験はこれからの活動にも大きな影響を与えることになるでしょう。
私はこれまで何度か、身近に突出した能力の持ち主がいるという状況を経験しており、その点からも周りのメンバーと平手さんとの関係性をいろいろと想像し考えてしまいます。そして自分としては、「天才を受け止め、その活躍を社会そのものの進歩に繋げる」仕事こそが自分の仕事だろうと思うわけです。
今後について
2021年以降の仕事はまだ明確になっていません。とりあえず3月までは今の大口研究室に所属する予定です。ただ、今年の仕事を振り返りながら「オンライン会議や配信向けソフト、機材を適切に選定し運用しながら場作りをする」「リアルのイベントを開催するという方法に代わる熱量の高めかたを考える」「誰かを主役にする」「天才を受け止め、その活躍を社会そのものの進歩に繋げる」といった今後の仕事の方向性になりそうなキーワードを見出すことが出来ました。私が関わっている公共交通や道路交通などの交通の世界で、そしてより広くITと社会という文脈の中でも、来年もこうした観点からの仕事が出来ればと思っております。本年はあまり多くの人とリアルに顔を合わせられなかったですが、この特異な2020年という同じ時間を経験したというだけでも、より繋がりは深くなったと信じています。どうか2021年以降も、一緒に、よりよい社会を目指して仕事が出来ればと思っております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
2019年を振り返る
1年を振り返るような記事をまとめたいと毎年思いつつ、年末の忙しさにかまけてなかなかまとめられないのだけれど、今年は、久しぶりに書いてみました。前回書いたのは2011年。今から読むと、立場上やるべきとされてることと、自らが思うやるべきことに引き裂かれながら逡巡する中で東日本大震災を迎えたということが分かります。
今年は、数年来取り組んできた公共交通オープンデータの推進が次のステージに進んだ年となりました。路線バスのオープンデータ化はほぼ既定路線となり、MaaSなどのデータを基盤とした次の取り組みも具体化してきました。もちろん、ひとつひとつの動きは各自治体、事業者などの取り組みであり、「お前は何をしたのか?」と問われると困ってしまうのですが、微力ではありますが旗振り役を続けて来たという気はしております。
一方で、特に地方の公共交通の危機的状況はいよいよ深刻化しています。これは、人口減や一極集中のさらなる進行、デフレ脱却の困難などが背景にあり、公共交通だけで解決できる問題ではありません。とはいえ、地域のインフラとしてのモビリティをどう実現するかという課題の中で、当然公共交通には重要な役割があります。これを、データ整備やIT化、今年はMaaSという取り組みでいかに前に進めていけるかが問われています。
標準的なバス情報フォーマットによるオープンデータ公開が170事業者へ
旭川高専の嶋田先生がまとめられているGTFS・「標準的なバス情報フォーマット」オープンデータ一覧に掲載されている、GTFS/GTFS-JPによるオープンデータが12月31日時点で170事業者になりました。この1年で約100事業者増えたことになります。私のニュースでありながら、もはや私が具体的に何かをしているわけではないのですが、言い出しっぺの一人としてこの状況をうれしく思っています。事業者の方の意識も、「GTFSって何?」という段階から「やるかどうか」「やりたいが人やお金が足りていない」といったところに進んできた感触があります。ここにどのような支援が出来るか、交通全体のデジタル化へとどうしたら繋げられるか、引き続き考える必要があります。
標準的なバス情報フォーマット第2版を公表した
本年3月に、国交省にて「標準的なバス情報フォーマット 第2版」をまとめ、発表することが出来ました。2017年3月に初版をまとめてから2年経ち、運用上生じていた問題などを一気に修正し、リアルタイム情報に関してもGTFSリアルタイムを本フォーマットに採用しました。事務局を務めた(株)トラフィックブレイン 太田恒平さんの推進力あっての成果ですね。このフォーマットに関しては、 gtfs.jpというサイトを立ち上げ、そこでも紹介するとともに、Tipsの交換やフォーマット更新の議論をGitHubで行えるような体制を作りました。
MobilityDataとの交流
Googleなどの支援を受け、世界的にGTFSフォーマットの標準化などを進めているMobilityDataという団体との交流が進みました。5月に開催したミーティングはこちらのブログ記事に紹介しています。その後GTFS仕様書の和訳プロジェクトにも協力しております。
公共交通オープンデータのイベント開催
3月に東大にて「公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2019」を開催しました。公共交通オープンデータ協議会の坂村健先生や横浜国立大学の中村文彦先生といったこの分野を開拓された先生方にご講演頂いたほか、佐賀、群馬、富山といった県単位でデータ整備を進めている地域の担当者にご講演頂いたり、数多くのライトニングトークを頂くなど盛りだくさんの内容でした。特に坂村先生とのトークバトル?は多くの方の印象に残ったようです。 2020年も3月7日(土)に同趣旨のイベントを開催します。是非ご参加、ご発表ください(近日中にご案内します)。
坂村先生、伊藤先生、歴史的和解!?(プロレス)#公共交通オープンデータ #オープンデータデイ pic.twitter.com/CO1vP73oi8
— 太田恒平 (@kohei_ota) March 2, 2019
4月には同じく東大で「標準的なバス情報フォーマット/GTFS勉強会」を開催しました。これは、より具体的、実践的な議論、情報交換の場だったのですが、少ない関係者で3パラのイベントを行うのは大変でしたね。関係者を鼓舞し続けた諸星賢治さん、直前に無茶振りしながら、快くご講演を引き受けてくださった皆様にほんとうに感謝です。
技術書展6への出展など
データがオープンデータとして公開されながら、それを活用した事業や研究がまだ十分ではない状況の中で、GTFS/GTFS-JPの活用可能性を広げる技術情報をどのように広めるか、というのは個人的な関心事でした。今年は、@kumatira氏を中心に「鉄道・バスのデータをハックする」という同人誌をまとめ、4月に開催された技術書展6に出展し好評を得ることが出来ました。オンライン版はまだ購入可能です!9月にはQiitaにGTFSデータとOpenTripPlannerを使って公共交通による到達圏解析を行うという記事を投稿しました。なかなか手が回らないですが、さらに技術情報を充実させたいと思っています。
オープンデータ推進のネットワークが広がる
本年度も、引き続き地方自治体や交通事業者、各地の運輸局などとご縁を頂き、データの整備や活用が地域交通の関係者の幅広い関心事項になって来たことを実感しております。昨年からお手伝いさせて頂いている沖縄、バスロケ整備をきっかけにデータ整備、活用が始まった熊本、県バス協会が先導する広島、県庁、市役所、地域の事業者がそれぞれ引っ張る群馬・前橋など各地の興味深い事例を学ぶとともに、関係者が地域で孤立せず、ベストプラクティスを共有できるような横の繋がりが作れたらと微力ながら動いております。
また、IT系からも、前述の技術書典だけでなくMOBILITY:devというイベントにて基調講演をさせて頂き(紹介記事1、紹介記事2)、来年2月にはデブサミ2020で講演させて頂くなど、さまざまに興味を持って頂いております。交通とITという大きな相乗効果が期待できる組み合わせを深められるよう、来年以降も動ければと思っています。
10月に開催したくらしの足をみんなで考える全国フォーラム2019において、DeNAオートモーティブ事業本部の黒澤部長、前橋市役所の細谷交通政策課長をお招きしたセッションを開催できたのも、こうした繋がりあってのことでした。元々、私よりだいぶ(?)上の世代の方が始められたフォーラムの実行委員に加わり、分野や産官学の垣根を越えたセッションを企画出来たことは、多くの人に共通する交通という課題を垣根を越えて議論する場作りという点でも意味があったと感じております。
運行管理者資格取得
3日間の基礎講習のあと3月3日の試験に合格し、無事運行管理者試験(旅客)に合格しました。試験日がオープンデータイベントの翌日で、ほとんど準備が出来なかったので、なんとか合格できて良かったです。日頃バスの話をしている手前、落ちることが許されないという謎のプレッシャーはしんどかったですね。普通のバス・タクシー業界の人のほか、IT業界からも受験者がちらほらいるようです。しかしこの資格、何かの役に立つのかな。
国交省MaaS懇談会(都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会)に参加
2018年10月より国交省都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会に参加し、MaaSに関する施策の基本方針の策定のお手伝いをいたしました。これを受けた新モビリティサービス推進事業のモデル地区選定やMaaS関連データ検討会にも参加しております。
2010年に鳥取大学に職を得たときから関わってきた、ITによる公共交通の高度化が、MaaSという大きな動きになったのには心強さを感じています。一方で、国交省の事業としてMaaSを推進するということの難しさを痛感する日々でもあります。
次期交通政策基本計画の策定に参加することになった
年末に交通政策審議会 交通政策基本計画小委員会に任命頂き、2021年度からの5ヶ年の交通政策の基本計画を議論する場に加わることになりました。議論は年明けから本格的に始まりますが、交通におけるITの役割が大きくなる中での、この先5年を考えた計画作りということで大きなプレッシャーを感じています。一方で、縮小、衰退する日本の中での地方交通の疲弊という課題感は大きく、5年前に定められた現行計画を読むと、字面こそ変わらなくても、課題の深刻度はますます大きくなっていると感じています。ITが全てを解決するわけではないですが、ITの活用無しに日本の交通を立て直すことは出来ないということ、また、自動車にしろ鉄道にしろ交通情報システムにしろ、産業としての交通が全て国内産業でまかなえていた状態から、MaaSなど新しい動きの中でそれが流動的になり、産業政策としての交通行政という観点も求められるようになっていることなど、自分なりの論点を整理しインプットできればと思っています。
交通信号の研究を始める
4月より研究室を移り、同じ東大生産技術研究所の中の大口研究室という交通工学の研究室で、学生と交通信号の研究を始めております。まだ具体的な成果は出ておりませんが、このタイミングで交通管制・制御というインフラ側に関われているのはとても貴重な機会だと思っています。上を走るバスなどの車両と、足元の道路との関係を学び始めているところです。来年度は、色々な形で研究成果をお見せできると思っています。写真は、交点の通過台数や信号機のタイミングなどを調査し、sumoという交通シミュレータでその様子をパラーメタとして入力して再現しているところです。
交通を考えるとき、私の視点はまずバスなど道路を走る車両にあるのですが、そう遠くなくインフラ側との協調が必要になると思っています。今は、交通管制は警察の仕事となっていてアカデミックな議論や技術革新の場とうまく繋がっていないように見えますが、遠くないうちにここを繋ぐ動きが必要になると感じながら、新しいテーマに取り組んでいます。
メディア出演など
日経コンピュータ11月14日号に「バスよMaaSに乗り遅れるな、若き研究者が地方交通の再建に注力する理由」という見開き記事を載せて頂いたり、 12月にNらじ特集"地方都市で進む減便 路線バスはどうあるべきか"出演, NHKラジオ第1のNらじ特集"地方都市で進む減便 路線バスはどうあるべきか"に出演させて頂くなど、よく知られたメディアにも出演させて頂くことが出来ました。
出張など
本年度の出張件数は、学会参加や講演などを合わせて集計すると、地域別に以下のようになりました。最多は沖縄で、これは、県の観光2次交通利便性向上の委員会の委員長を拝命しているためです。ほかにも、熊本や広島、前橋など地域の熱気が高まっているところには何度か伺っております。個人的には、出身地である掛川市に呼んで頂き、将来ビジョン検討の議論に参加させて頂いたのをありがたく思っています。この間に受け取った名刺は1032枚、番外編として、霞ヶ関(主に国交省)に伺ったのが24回(見落としがありそう)となりました。家庭の事情で、海外出張が今少し難しいのですが、そろそろ、国際的な情報発信やネットワーク作りも必要な段階になってきましたね。
地域 | 回数 |
---|---|
那覇 | 4回 |
名古屋 | 3回 |
熊本 | 3回 |
前橋 | 2回 |
金沢 | 2回 |
広島 | 2回 |
札幌 | 1回 |
青森・八戸・弘前 | 1回 |
仙台 | 1回 |
磐梯熱海温泉 | 1回 |
会津若松 | 1回 |
千葉 | 1回 |
富山 | 1回 |
沼津 | 1回 |
掛川 | 1回 |
蒲郡 | 1回 |
京都 | 1回 |
神戸 | 1回 |
鳥取 | 1回 |
岡山 | 1回 |
庄原 | 1回 |
高松 | 1回 |
福岡 | 1回 |
今後の取り組み
2018年の日本モビリティ・マネジメント会議で発表したポスターにまとめた4つの課題が、引き続き重要だと思っています。
バス事業者: 業務のデジタル化
そのままですね。最近は、デジタルトランスフォーメーションという言葉がありますが、その手前のIT化、デジタル化から地道に着実に進めていけば、本質的にはデジタル技術と親和性の高い業界のはずなので、業務効率の改善が大きく進むと思っています。
ITベンダー: 囲い込みから相互運用性へ
交通事業者のITシステムが、実状としては内部で分断され、メンテナンスにもとても苦労している状況があります。古くからシステム化を進めた事業者ほどデータが分散して存在しており、GTFSの作成もかなり苦労しています。私としては、標準フォーマットの導入が、出口の標準化だけでなく、内部アーキテクチャの標準化のきっかけに出来ないかと考えています。ちなみに、バス事業者の社内システムですが、ざっくりと理解したところ、以下の図のようになっています。実際にはこのようにきれいにはデータが繋がっておらず、それぞれの段階で現場合わせの手作業が発生している状況のようです。是非、ITの価値を交通事業者に感じて頂けるような状況を生み出したいと思っています。
乗換案内: リアルタイム交通メディアへ
利用者が、スマホを通してその場その時の情報を求めるようになっているのに合わせた公共交通の情報提供が求められています。日本の乗換案内サービスが、今もほとんどが時刻表情報の提供に留まっているのに対して、Google Mapsでは、以前よりGTFS Realtimeによる遅れ情報を加味した検索を実現しており、今年は交通情報などを総合した予測を始めています(例:Googleマップが世界200都市でバスや電車の混雑予測を開始)。残念ながら、日本国内での運用にはまだ問題があり、予測の信頼性の低さが気になるところです。いずれにしても、この領域はまだ発展途上で、サービスの進化の余地はまだまだあると思っています。
交通行政: 届出のデジタル化と活用へ
GTFS-JP(標準的なバス情報フォーマット)は、ひとまずは利用者向けの情報提供ツールとして認知され始めていますが、その提供を可能にするためには交通事業者の業務が十分にデジタル化されてる必要があり、それを促進するためには国の公共交通行政もデジタル化されている必要があります。今年は、太田恒平さんを中心に運輸局への届出のデジタル化の可能性を検討しました。来年以降も、このテーマは公共交通のこれからを支える大事な課題だと考えて取り組んでいきます。
www.slideshare.net
それぞれ大きな課題ですが、2020年には何とか手が付けられたらと思っています。
公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2019 発表資料(更新中)
開催概要
メイン配信
前半
後半
サブ配信(iPhone)
当日SNSなど
13:30〜14:25 セッション1: オープニング・特別講演1
www.slideshare.net
www.slideshare.net
- 坂村 健(公共交通オープンデータ協議会会長・東洋大学情報連携学部INIAD学部長)
14:35-15:50 セッション2: 行政の取り組み
www.slideshare.net
www.slideshare.net
- 「数々の苦難を乗り越え全県のバスデータ公開へ」
- 栗原 靖(群馬県 県土整備部交通政策課)
www.slideshare.net
www.slideshare.net
16:00-16:30 セッション3: 特別講演2
- 公共交通(バス)データについての思いと期待
- 中村 文彦(横浜国立大学 理事(国際・広報・地域担当)・副学長)
www.slideshare.net
16:30-16:50 LTセッション1: 九州が熱い!
www.slideshare.net
- 「熊本が熱い!!〜熊本の取組み事例紹介〜」
- 内野雄太(九州産交バス株式会社)
www.slideshare.net
- 「GTFSリアルタイムで変わるバスの世界 - Code for Sagaでのバスオープンデータに対する取り組み -」
- 吉賀夏子(Code for Saga、佐賀大学)※10分
www.slideshare.net
16:50-17:20 LTセッション2: 新技術への挑戦
- 「公共交通データHUBシステム 取組と事例紹介」
- 武藤 条(ジョルダン株式会社 エンジン開発部長)※10分
www.slideshare.net
- 「GTFSとバスマップ」
- 森屋一成
- 「事業者と開発者にやさしい交通オープンデータ規格のご提案」
- 荒巻凌(慶應義塾大学)
- 「カードゲームで遊びながらオープンデータ活用案を発想!?」
- 飯島玲生(名古屋大学)
www.slideshare.net
- 「「オープンデータ」だけで公共交通ダイナミックプライシングにチャレンジしてみたい」
- 熊野 壮真(ヴァル研究所)
17:20-17:40 LTセッション3: 全国が熱い!
- 「八戸市営バスGTFS-JPデータ作成プロジェクト」
- 福田匡彦(青い森ウェブ工房)
www.slideshare.net
- 「高速バスのGTFS化について 〜長距離路線でもキレイなShapeを〜」
- 狩野 隆志(日本中央バス株式会社)
www.slideshare.net
- 「観光地 秩父全域バス見える化の実現に向けて」
- 見えバス・鴫原育子(株式会社マネジメントシステム)
- 「災害時こそ情報提供をオープンデータで解決できないか?〜H30.7月豪雨でのトライアル」
- 神田佑亮(呉工業高等専門学校)
www.slideshare.net
17:40-18:00 LTセッション4: 公共交通オープンデータの今後に向けて
- 「GTFS WARS ~Episode7 予告編~」
- 高野 孝一(その筋屋)
- 「ハイエースだってGTFSリアルタイム対応する時代に」
- 諸星賢治(ヴァル研究所)
www.slideshare.net
- 「GTFSエコシステム構想」
- 太田恒平( (株)トラフィックブレイン)
www.slideshare.net
第3回交通ジオメディアサミット 発表資料
「第3回交通ジオメディアサミット 〜東京2020の交通をITで支えるために〜」で発表された資料をまとめてゆきます。(資料が公開され次第追加してゆきます)
映像
中継を行った高野孝一氏が当日の発表動画をまとめています。
発表資料
それぞれのスライドは、リンクを辿ることで、配布元からpdfをダウンロード出来ます。
オープニングセッション
www.slideshare.net
www.slideshare.net www.slideshare.net www.slideshare.net
セッション1: オリパラに向けての交通・輸送の準備状況について
司会:(株)トラフィックブレイン 太田恒平
- 東京2020大会の輸送と交通マネジメント
- 神田昌幸(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会輸送局長)
www.slideshare.net
www.slideshare.net
セッション2: 乗換コンテンツプロバイダの紹介とオリパラに向けた取り組み
司会: 東京大学 伊藤昌毅
- Future of Transit
- Anthony Bertuca(Product Manager for Google Transit)
- ナビタイムジャパンの経路検索とオリンピックに向けた取り組みについて
www.slideshare.net
www.slideshare.net
www.slideshare.net
ディスカッション: 東京2020の交通のためにいまやるべきこと
司会: 東京大学 伊藤昌毅
セッション1、セッション2の登壇者に壇上に並んで頂き、東京2020オリンピック・パラリンピックの交通のために何をするべきか、議論を進めます。
セッション3: バスデータの世界
司会: (株)ヴァル研究所 諸星賢治
- 『その筋屋』が実現させるバス業界向けシステムの未来 ~2020年よりも前に~
- 高野孝一(Sujiya Systems)
- 定住を推進するために公共交通にできること ~経路検索の充実に向けた取組み~
- 柘植良吾(中津川市役所 定住推進部定住推進課)
www.slideshare.net
- アメリカ公共交通調査の旅
- 伊藤浩之(公共交通利用促進ネットワーク)
- 福田匡彦(青い森ウェブ工房 代表)
- 佐野一昭(バス停情報研究家)
ライトニングトーク
www.slideshare.net
- GTFSリアルタイム
- 村田友紀(Google gTech Solutions Consultant (Geo))
- GTFSを導入したバス事業者が実感する情報発信の効果
- 水野羊平(永井運輸株式会社 バス事業部)
www.slideshare.net
中継動画
https://www.youtube.com/watch?v=kSvOX7mUDFQwww.youtube.com
SNSなどまとめ
Twitterまとめ
sli.do
Blog・記事
公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2018 発表資料
「公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2018」で発表された資料をまとめました。
記事等
本イベントを、以下の記事で紹介頂きました。
SNSでの反応
Twitterでの反応をまとめて頂きました。
発表資料
それぞれのスライドは、リンクを辿ることで、配布元からpdfをダウンロード出来ます。
セッション1: 総論と可能性
www.slideshare.net
- 「官民連携による公共交通分野におけるオープンデータ化の推進について」
- 藤田礼子(国土交通省 総合政策局 情報政策課長)
www.slideshare.net
- 「標準的なバス情報フォーマットからみえる交通事業者の姿」
- 鳴海行人(まち探訪家・東洋経済オンラインライター)
www.slideshare.net
セッション2: データ整備とその課題
- 「ゼロから始める標準的なバス情報フォーマット ~ その筋屋を使って」
- 高野孝一(その筋屋)
- 「公共交通データの収集と整備 21年目の挑戦」
- 伊藤浩之(公共交通利用促進ネットワーク)
www.slideshare.net
www.slideshare.net
- 「バス事業者による標準的なバス情報フォーマット作成までの想いと現状」
- 三浦公貴(青森市企業局交通部)
www.slideshare.net streamable.com
- 「オープンデータの夢と現実(仮)」
- 佐藤 匡(神姫バス)
www.slideshare.net
- 「バス事業者とって標準的なバス情報フォーマットのメリットは何か?」
- 堀江 武(東京大学大学院 大口研究室)
www.slideshare.net
www.slideshare.net
セッション3: オープンデータ活用と仕組み作り
- 「みちのりHDにおけるスマートバス停の取組」
- 浅井 康太(みちのりホールディングス)
www.slideshare.net
www.slideshare.net
www.slideshare.net
www.slideshare.net
- 「経路データ作成と地図、作成と共有」
- 飯田哲(Georepublic Japan、OpenStreetMap Foundation Japan)
- 「GTFSを時刻表に可視化」
- 佐野一昭(バス停情報研究家)
- 「公開情報から始まったバス停検索サービス運営で見えたこと、今後の展望」
- 福田匡彦(バス停検索)
www.slideshare.net
- 「オープンデータ推奨の続き」
- 諸星賢治(ヴァル研究所)
www.slideshare.net
乗換案内検索結果を比べてみた
8月10日(木)に群馬県庁に行く用事があったのですが、その際の乗り換え案内結果が各社で大きく違っていて驚いたので、詳しくまとめてみました。その日の朝にTwitterに投稿したところ、現在までで900近いRTやFavがあり、改めて、この手の話題への関心の高さを知りました。
群馬県庁に行く乗換経路探索、各社の結果が違いすぎて驚き。バスデータの有る無しだけじゃなくて、各社のアルゴリズムの違いがかなり出てる気がする。 pic.twitter.com/7MBnqJ8GYB
— Masaki Ito (@niyalist) 2017年8月9日
条件など
改めて各社の乗り換え案内で、8月10日(木)11:25に群馬県庁に到着という条件で検索しその結果を示しました。検索条件はなるべくデフォルトまたはお勧めとしています。ただしAppleは過去の日付を設定出来ないので、一週間後の8月17日で検索しています。
乗り換え案内アプリとして選んだのは、以下の5種類です。駅名やバス停名ではなく、施設名で検索したかったので、この機能を持たない「駅すぱあと」や「駅探」は比較対象に入れていません。並べた順番はあとで図化したときにやりやすかった順番で、それ以上の意味はありません。
Yahoo! 乗換案内
Yahoo!が提供しているアプリで、乗換案内のエンジンは駅すぱあとを開発しているVAL研究所が提供しています。おそらくYahoo!独自の拡張で、駅やバス停間だけでなく施設名を対象とした検索を実現しています。
Apple Maps
Apple自社製の地図アプリに乗り換え案内機能を備えており、日本では2016年10月より使えるようになりました。データはジョルダンからの提供ですが、アルゴリズムは独自と思われます。個人的には、バスの情報が充実していると感じています。
Navitime トータルナビ
Navitimeには「乗換NAVITIME」「バスNAVITIME」などのアプリもあるのですが、ここでは鉄道、バス、徒歩などを総合的に検索するため、「NAVITIME」アプリのトータルナビ機能を利用しました。
ジョルダン乗換案内
老舗の1つジョルダンは、「乗換案内」という名前でiPhone向けアプリを提供しています。鉄道だけでなくバス情報も充実しています。Tweetに載せた検索結果ですが、実は祝日である8月11日(金)の結果を載せており、検索結果が違っています。以下に載せたものが正しいです。
Google Maps
ご存じGoogle Maps付属の乗り換え案内機能です。時刻表データはジョルダンから提供を受けていますが、検索アルゴリズムは独自のものを使っていると思われます。
各社の検索結果
まずは各社の乗換検索結果を示します。
Yahoo!、Apple、Navitime
ジョルダン、Google
検索条件
Yahoo!の乗り換え時間の「少し急いで」が気になりますが、「普通」がなく次が「少しゆっくり」なので、この条件で検索します。
Yahoo!、Apple
Navitime、ジョルダン、Google
考察
図に示してみた
各社乗換案内が縦に長くて、比べてみても意外と把握しづらいので、1つの図にまとめてみました。力尽きて凡例とか書いてないですが大体で理解してください。
新幹線の利用
ジョルダンだけ、新幹線を使った検索結果が出ません。これは、検索設定の「有料特急を利用」を「おまかせ」から「なるべく利用」に変えても変わらないので、ジョルダンの検索の癖なのかもしれません。実際、群馬あたりだと湘南新宿ラインのグリーン車でも十分快適に移動出来るので迷うところではありますよね。ただ、選択肢に出して欲しいという気はします。
新幹線は大宮から乗るか東京から乗るか
小田急沿線住民には、東北上越北陸新幹線に大宮から乗るか東京から乗るかという選択肢があります。大宮から乗る場合は、新宿に出てから埼京線などで大宮へ行くコース、東京に向かうときは代々木上原から千代田線に入ります。各社判断が分かれるところですが、ここではGoogleだけが東京から、Yahoo!、Apple、Navitimeが大宮から新幹線に乗るように案内しています。運賃は東京から新幹線に乗った方が少し高いのですが、意外と時間的なアドバンテージが無く(これは大宮までの新幹線に厳しい速度規制があるからだと思います)、大宮経由の結果が出がちです。
ちなみに私のチョイスは、東京駅周り。それもGoogleとも違って、千代田線二重橋前駅から行幸通りの地下を通って徒歩で東京駅に行くコースです。大手町から歩くより近いし道も歩きやすいと思ってるんですが、どうでしょうか。大宮経由で東北新幹線に乗ったこともあるのですが、埼京線が遅れてドキドキしたり、何より、新幹線の座席に座る時間は長い方がいいと思っています。でも、この乗換を案内してくれる乗換案内サービス、ほとんど無いんですよね。
大宮までのAppleとNavitimeの違い
AppleもNavitimeも新宿経由で大宮発9:54の新幹線に乗る経路を案内しています。しかし読売ランド前の発車時刻がNavitimeの方が5分早い。この違いはどこから来るのでしょう。比べてみるとAppleの方が小刻みに乗り換える経路を案内していることが分かります。また、新宿での小田急から埼京線への乗り換え時間が5分と、朝の混雑状況だとぎりぎりの時間です。知らない駅で乗り換えるときは、ホームを探したり階段の上下で案外時間がかかりますね。座れた人にとっては、そのまま乗り続けた方がいいでしょう。AppleよりNavitimeの方が、より乗り換えを避けるべきだと考えているのではないでしょうか。また、新宿駅の正確な乗り換え時間をAppleが持っていない可能性もあります。ただ、Navitimeには万が一乗り遅れたときにもまだリカバー出来るということも教えて欲しいですね。
高崎からのバス経路
Yahoo!だけが10:50に高崎駅を出る群馬中央バスを案内し、ほかはJRで前橋方面に案内しています。このバス、本数は少ないですがタイミングさえ合っていれば高崎から最短で県庁まで行ける交通手段のようです。これを見つけてくれたYahoo!は立派です。条件を変えて検索したのですが、Google、Apple、Navitimeにはそもそもこのバスのデータが入っていないようです。ジョルダンにはデータは入っているのですが、総合での検索結果はJRで前橋駅へ行く経路でした。
高崎駅のバス停の実際
実際には高崎駅の現地での案内が不十分で、バス乗り場を見つけるのがとても大変だった点も指摘しておきます。高崎駅には東口と西口それぞれにバス停があるのですが(案内をよく見ると東口は市内循環バスだけと読み取れますが、実際はそうでもないようです)、乗換案内の結果を見る限りどちらのバス乗り場からら乗れるのか、全く分かりません。バス利用者向けの案内は、鉄道での案内と比べて乗り場や乗り方などのより詳細レベルの案内が本来は必要になります。この要求に十分に応えられているアプリは、まだ存在しないと言っていいかもしれません。
写真に、改札を出たところの景色と東口・西口の案内の接写、西口をでたところにあるバス乗り場の案内を示します。改札を出て分かるのは、東口と西口の両方にバス停があるということだけで、どちらから前橋行きのバスが出ているか分かりません。西口に出てしまえば、写真のような乗り場案内があるので目指すバス乗り場は見つけやすいのですが、私は東口に出てしまい大きく時間をロスしました。
前橋か新前橋か
高崎から電車で前橋に向かうことにした4社のうち、Googleだけが吾妻線で新前橋駅下車、Apple、Navitime、ジョルダンは両毛線で前橋駅に行っています。前橋駅の方がより県庁に近いので、ここはGoogleの選択が謎です。わざわざ高崎駅で遅くまで待って、前橋駅には行かない吾妻線に乗って、新前橋駅から30分も歩く経路をどうして出すのでしょうか。じつは第3候補には他社と同じ前橋駅経由が出てくるのですが、優先順位の付け方が謎です。
県庁まで徒歩かバスか
前橋駅や新前橋駅から県庁へは、Appleだけがバスを選び3社が徒歩経路を案内しています。この区間、バスも走っているのですがGoogleにはバスのデータが入っていないようです。Navitimeとジョルダンは、バスデータはあるのですが敢えて徒歩を選んだようです。バスの本数は限られているので、純粋に到着時刻で比較すれば歩いた方が早いかもしれません。しかし、指定の11:25にはまだ余裕のある状況で、夏の炎天下に20分から30分も歩かせる選択はちょっと納得出来ません。
ちなみにこの区間のバス情報は県庁のホームページが詳しく、この区間を走る6社のデータを全てまとめた時刻表を掲載しています。駅の乗り場も6番乗り場まであるのですが、どこで乗っていいか分かります。乗換案内各社がこの区間のデータをどれだけ網羅しているか分かりませんが、少なくともNavitimeには群馬中央バスは載っていないようです。また、前橋駅をおりたところにも写真のような案内があり、これを見れば直近のバスの時刻と乗り場が分かります。ただし遅れには対応していないらしく、遅くなった場合もこの案内では出発したことになるそうです。
150mを1分未満?
Appleの乗換検索結果の最後、県庁前のバス停から県庁へ150mを1分未満で歩けってどういうことなんでしょうね。不動産広告的には1分あたり80m、しかも信号も渡るので、これは無理ですよね。
そのほかのAppleの制約
Apple(iOS)の乗り換え案内だけ、過去の日付を指定出来ない、また、時刻の設定が5分単位でしか出来ないという制約があります。そもそも、時刻の表記が小さくて見づらく、あまり時刻を重視していないように見えますが、これは日本で利用する際にはちょっと使いづらいと思います。また、11:25着で検索しているのに、第2候補には1:38着の経路が出るという、不思議な挙動もありました。全体的に操作方法が独特ですし、他のアプリを使ってから戻ると、検索をやり直す必要があるなどまだ使い勝手が十分こなれていない印象があります。
まとめ
各社の乗換検索の比較、いかがでしたでしょうか。各社アルゴリズムの違いがありますし、バスデータに関しては、サービスによってカバーしている路線が異なるので、どのサービスがいいとは一概に言い切れないと言うのが個人的な感想です。その中でも、今回の検索区間は各社の結果が大きくばらける区間だったと思います。普段、どれかひとつの乗換案内を当たり前のように使っている方が多いかと思いますが、改めて他と比較してみてはいかがでしょうか。
現在、乗換案内サービスはこれまで以上にバスデータを網羅するよう各社が努力していますし、以前は駅から駅の検索だったところが、任意の地点から地点への検索が可能になってきています。乗換案内のアルゴリズムにおいても、バスや徒歩まで考慮したより多くの選択肢の中から「最適」な案内を出すことが求められるようになってきました。私自身も、最寄りではない駅までバスで行った方が結果的に早く着くという経路を案内され助かったことがありますが、経路の質の向上という意味でも、各社のサービス向上に注目したいところです。