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niyalistのブログ

東京大学 生産技術研究所でITと公共交通について研究している伊藤昌毅が、日々思うことや研究のことを書きます。

2011年を振り返る

2011年の終わりに,一年を振り返る記事を書いておこうと思う.自分としては,年より年度で動いている部分が多いので区切りという感覚は薄いのだけれど,書けるときにかけるだけ書いた方がいいかな,と思って.

 

2011年は,個人的には新しい場所で新しい研究を始める土台作りに奔走した1年だったと思う.鳥取大学に来たのが2010年10月.去年の今頃に何をしていたかはっきり覚えていないけれど,慶應義塾大学 徳田研究室で関わっていた研究プロジェクト(NICTダイナミックネットワークプロジェクト)の最終成果発表の準備を遠隔から手伝ったり,そのプロジェクトの一環で書いた論文を査読コメントを受け修正したり(この論文は無事採録された)など,まだ半分は慶應の仕事をしていたように思う.NICTのプロジェクトの最終発表では高評価を頂き,本年度から始まった後続プロジェクトにも徳田研究室からの提案が採択された.最後の半年を抜けることとなり色々と迷惑をかけたけれど,自分がお手伝いしたあ(色々と勉強させて頂いた)プロジェクトをそれなりの形で終えられ,ほっとしている.

 

今年になってようやく,自分なりの研究テーマを打ち立て,それを進めてゆこうという体勢を作り始められた気がする.研究室に新入生を迎え,そのために次年度の研究テーマについて教員5人のチームで議論し,その中で,自分なりの提案も取り入れて頂いた.研究室の体勢の中で,3名の4年生の卒論を直接指導させて頂いたり,数名の修士課程の学生とも一緒に研究を進められている.特に実績があるわけではない自分にこのようなチャンスをくださった先生方にはほんとうに感謝しているし,一緒にやることになって,私の試行錯誤に巻き込まれている学生が,少しでも楽しくて満足の得られる研究活動を送ってくれたらいいな,と思う.

 

バスネットへの参加

これまで研究をしていたテーマもあり,鳥取大学に来てどのような研究テーマを打ち立てようかは迷うところだったけれど,結局,私が来る以前から研究室で続けられていたバス・鉄道の経路探索しサービス「バスネット」の研究に参加しながら,自分なりのテーマを探してゆくことにした.鳥取に来てすぐにFOSS4G Osaka 2010で「日本一のバス案内システムが鳥取にあった:バスネットの技術と挑戦」というタイトルで発表したとおり,バスネットは大学の研究成果でありながら,運用体制も整備され実用サービスとして利用されている.

 

実は私が専門分野としているユビキタスコンピューティングという分野は,数年前から急速に実用化が進んだ状況があり,その状況でどのような研究テーマを設定するかは,難しい問題となっている.例えば,位置情報やセンサ情報,RFIDや小型端末などを使ったサービスは,スマートフォンクラウドコンピューティングなどをプラットフォームとして,実用レベルのサービスの開発が急速に進んでいる.その中で,研究者としてはより先進的で萌芽的なシステムやサービスを提案するか,厳密なモデル化や高度な数学などを駆使した精緻な研究を進めるか,途上国や高齢者など,技術が行き届かない対象への技術の導入を研究するか,いずれにしても研究分野の立ち上がり時期とは違う,第2,第3段階の研究テーマが求められている.

 

そうした状況で,バスネットは「ユビキタスサービスを実用サービスとして開発,運用しながら知見を得る」ための舞台として可能性に満ちているように思えた.アイディアを思いついて作っただけでは,もはや研究にならない.しかしそれを,十分な数のユーザに実用品として使ってもらい,フィードバックを得れば,その知見は研究としても高い価値を持つのではないか.大学の研究室が開発しているサービスで,これだけ継続的に運用されユーザを獲得しているサービスはそうそうない.このバスネットを,ユビキタスコンピューティングのアイディアを盛り込んで進化させれば,ユニークかつ先進的な研究成果を生み出せるのではないか,そのように考え,バスネットの研究に参加することを決めたのだった.

 

以来,なるべく積極的に,バスネットの話を色々なところでするように心掛けている.9月には,自分にとってホームグラウンドである国際会議Ubicomp 2011でポスター発表をしたほか,7月には青森県八戸市で開かれた日本モビリティマネジメント会議,11月には東京大学空間情報科学研究センター シンポジウム CSIS DAYS 2011といった,これまで参加機会のなかった交通分野,地理情報分野のイベントにも参加させて頂いた.これらの会議は,これまであまり繋がりのなかった,交通分野の専門家や事業者,研究者の方々などと知り合う機会にもなった.TwitterなどでIDは知っていた方もいらして,新しい分野に挑戦する際のソーシャルメディアの威力を再認識することとなった.

 

また2011年6月には,鳥取大学にて「鳥取発!地域交通の新しい姿 公共交通利用促進に向けた情報技術の利用に関するセミナー」というイベントを開催し,そこで,今後の研究方針について少し話をさせて頂いた(発表資料).研究テーマに関しては,これまでバスネットの研究を進めてこられた菅原先生,川村先生などと継続的に議論させて頂くとともに,卒論,修論研究などの形で進めている学生とも議論を重ね,この段階から,アイディア的にも技術的にもだいぶ深まっている.今年は,今まさに出始めている具体的な成果を示しながら,学会などでの発表も進めてゆきたいし,サービスの進化も目指してゆきたい.

 

地域志向の試行錯誤

鳥取に来て真っ先に思ったのは,「地域性のある研究をしたい」ということだった.この土地でしか出来ない,かつ世界的にも競争力のある研究テーマを何とかして見つけたい,そう思っていた.バスネットに参加して,確かにここでしか出来ない研究テーマだ,ということで非常に満足している.地域のバス事業者の方と話をする機会を持ちながら研究を進めるなど,簡単には出来ないことだな,とありがたく感じている.しかし一方で,実用サービスを構築するに際して考慮すべき細部に至れば至るほど,議論がドメスティックになりがちで,そのこと自体の善し悪しは簡単には言えないと思うのだけれど,戸惑ってもいる.ドメスティックというのは,鳥取ならではというより,日本ならでは,ということである.どうしても,実運用に近いサービスになると,日本の路線バスの仕組みや法制度,社会制度などに立脚した議論や技術が多くなってくる.論文を執筆していても,日本語で書かれた国内の精度や文化を前提とした論文を参照することが多くなる.これまで英語論文を参照することが多かっただけに,このあたりは未だ戸惑っている.

 

研究プロポーザル,査読付論文

大学教員の仕事を始めてみて,自分の名前で研究プロポーザルを書けることの喜びを感じたのと,ほんとうに遅ればせながら,論文を書くということがアウトプットとして一番重要視されている,ということに気付いた(こんなことを書くのは研究者としてほんとうに恥ずかしいことなのだけれど).ということで,2010年にこちらに来てから本日までに,科研費(2回)を含めて6本の研究プロポーザルを書いている.うち4本は落選,2本が結果待ちの状態である.また,論文誌に2本論文を投稿し,1本は不採録,1本は連絡待ちの状態である.いい成績とはいえないけれど,なんとか2012年には,形となる成果を出してゆきたいと思う.

 

今年の出張

幸いにも,今年は以下のような出張機会があり,その機会を利用して様々な方と交流させて頂いた.出張時に,一緒に食事などしてくださった皆様,ほんとうにありがとうございました.普段接点がないと,どうしても自分の感覚が例えば情報産業で実際に働いている方の感覚とずれていってしまう.こういう機会に話をさせて頂けるのは,本当に有り難いことです.

  • 3/11〜 東京 Web時代のGIS技術勉強会
  • 5/24〜 千葉 日本地球惑星科学連合2011年度連合大会
  • 7/14〜 青森 日本モビリティマネジメント会議
  • 9/8 大阪 鳥取大学ビジネス交流会
  • 9/16 東京 鳥取大学ビジネス交流会
  • 9/17〜 中国・北京 Ubicomp2011
  • 10/22 広島 第62回 電気・情報関連学会中国支部連合大会
  • 11/10〜 東京大学空間情報科学研究センター シンポジウム CSIS DAYS 2011
  • 11/12 大阪 FOSS4G Osaka
  • 11/26〜 イタリア・ベネチア

 

震災と距離感 

2011年を振り返るにあたって,書かなくてはいけないけれど全く書けないのが,震災や原発関係のこと.3月11日に自分はたまたま東京にいて,強い揺れ(もちろん東北ほどではない)やその後の帰宅困難,都心部の通信状況などを経験したのは,忘れられない体験である.その日の夜に,古橋さん( @mapconcierge )が司令塔のように働いて,OpenStreetMapの更新などその後のsinsai.infoにつながる動きをリアルタイムに見れたのも得がたい経験だった.一方で,自分がこの手の即応性,臨機応変な働きを求められるプロジェクトに参画するのは(色々な意味で)困難である,と思い悩む日々でもあった.

 

テレビから流れてくる震災の映像にはほんとうに強いショックを受けていて,今でも,当時の映像を出来ることならば見たくないと思っている.NHKスペシャルなど,その後良質なドキュメンタリーが作られているのは知っているのだけれど,正直,まだ,見れる気がしない.ACやJR九州のCMさえ見るのがちょっとつらい,という感じ.

 

多分多くの人がそうなのだろうと思う.多くの人が,なにか,自分に出来ることはないだろうかと思い,悩み,動いたのだと思う.そうした中で,自分自身は,遠く離れた鳥取で,ガソリンに困ることもなく(ペットボトルの水と単1電池の入手はしばらく困難だった),日常を送っている,というのがうまく受け止められなかった.停電であったり,省電力であったり,放射線であったり,卒業式の中止や入学式の延期であったり,神奈川にいたときの知人,友人や先輩,後輩が感じている困難は,鳥取では全く影響はなかった.被災者の苦労は想像を超えていただろう.そんな中で自分が普段通りの生活をしていることを,どう理解していいのか,戸惑うばかりだった.

 

当時,研究成果をまとめる論文を書いていたこともあり(それは,自分の立場で強く求められていることでもあった),Twitterなどで見られた,様々な震災復旧への貢献を横目で見ながら上の空で論文を読み書きしつつ,ほんとうに自分が何をするべきか,心が定まらない日々を送っていた.

 

正直,震災をどう受け止めるべきか,それに対して,自分は何が出来るか,どうするべきか,未だによくわからないまま目を背けている.多分この問いは,まだしばらく抱え続けることになるんだと思う.

 

2011年を境に,日本の社会の価値観,考え方は大きく変わるだろう.例えば,放射性物質に対する子供を持つ母親の反応が,Twitterなどの上で可視化され,ひとつの勢力を形作るようになっている.年齢の高い男性中心の価値観とは大きく異なる価値観が,次の社会の姿を基礎付ける潮流のひとつになりつつある.Twitterなどではそうした動きを強く感じるとともに,3月11日を実体験における節目とはなかなか感じられない鳥取での感覚と,首都圏を中心とした感覚とがこのあと大きくずれてしまうのではないかというのが心配のひとつである.

 

2012年の抱負 

まずは,研究を進めるチーム作りを引き続き進めてゆきたい.研究方針やいい論文のあり方など,中心的な価値観を共有しながら,活発な議論が出来るチームを,学生とともに作ってゆきたい.そして,引き続き鳥取のバス情報システムの価値を高め,実用性とともに,挑戦的なサービスを常に実現しているという評価を得られるようにしたい.他地域へのアピールも進め,新しい技術のテストベッドとしての価値なども認めた頂ければと思う.

 

 

ところで地図は? 

鳥取に来てから,なかなか地図技術そのものに関われなくなっているけれど,「Web時代のGIS技術」という問題設定は今も有効で重要だと思っています.地図だけでなく,位置情報,位置適応性があらゆるサービスの重要な要素となる中で,アプリケーションプラットフォームとして進化を進めるWebの,位置や空間情報への対応は更に数段進歩しなくてはならないと感じています.今後も引き続き議論に参加出来ればと思ってます.

 

とはいえ,自分が今進めているような研究こそ「次の地図だ」と思っているのは事実です.地図を,「地理空間やその上で起こっている現象を解釈することで,自分自身も何らかの行動を起こす人を支援する情報」と定義するならば,バス位置や時刻表も地図(空間情報)だし,経路探索結果も地図の一種なのです.このあたりは,自分の中では自然に連続した研究を進めているつもりです.