niyalistのブログ

東京大学 生産技術研究所でITと公共交通について研究している伊藤昌毅が、日々思うことや研究のことを書きます。

OpenStreetMap勉強会 バス停編に参加した

 2月6日(日)に開催された「OpenStreetMap勉強会 バス停編」というイベントに参加してきました。場所は高円寺にあるヴァル研究所です。駅すぱあとを開発している会社です。OpenStreetMapOSM)とは、Wikipediaのようにボランティアのユーザが少しずつデータを登録して出来る地図で、ODbLというライセンスに基づいて自由にデータが利用出来るのが特徴です。世界中で活動がされていますが、日本でもコミュニティ活動が盛んで、しばしば、マッピングパーティーというイベントを開いています。普通マッピングパーティーというのは、OSMの愛好者(マッパーと呼ぶ)や興味のある人が集まり、あるエリアを調べてその後にデータを入力する、というような半分アウトドアなイベントが多いと思うのですが、今回は、屋内メインのイベントで、予め知っているバス停やバス路線を入力しようという会でした。

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プログラム

会の進行はこんな感じでした。記憶で補っているので間違ってたらごめんなさい。。

10:30 開場
10:35 簡単な開会宣言(林さん
10:40-11:00 ヴァル研究所:会場説明とOSMを使った取り組みを紹介
11:00-11: 15参加者自己紹介
11:20-11:30 「OSMとは・・・」 (斉藤さん
11:30 「バス停の入力方法」(林さん)

<<実習1>> バス停の入力。

12:00-13:30 <<昼食>>
13:30 「バス路線の入力方法」 (キムさん

13:45
<<実習2>> スライドでバスルートの編集方法を説明しながら各自でバスルートを編集する。
 ・バス停のタグ付
 ・バスルートのタグ付 & 経路 & etc
16:00
成果発表・LT

17:30 
懇親会(九州料理 マルキュウ - 高円寺/郷土料理(その他) [食べログ]

内容

 林さん、キムさんからOSMへのバス停、バス路線のデータ入力方法を教えて頂き、参加者がJOSMを使ってそれを実践してデータ入力するという会でした。OSMへのバス停やバス路線の入力は、あまり直感的でなかったりリレーションを理解していないと出来なかったりで、OSMへのデータ入力の中でも、高度な技術のようでした。今回も使った、キムさんのこのスライドが今もいい資料のようです。

バス停の入力

 バス停の位置とは、バスが止まる路上の位置を差すのでしょうか、バスのポールがある位置を差すのでしょうか。2011年以降、OSMではこのふたつを別のものとして入力します。上のスライドの32ページが詳しいのですが、ポールの位置には「プラットフォーム」を表すタグを入力します。駅のホームなどに対するタグなので、直感的ではないと思ったのですが、「乗り物を待つ場所」と言う意味で共通するのだそうです。一方、バスが止まる位置は車道の上に表現できます。他にも、バスベイという、バスが停車するために車道が膨らんでいるような構造も、表現できるそうです。

バス路線の入力

 バス路線は、新しくWayを入力するのではなく、道路を表すWayを並べた「リレーション」として表現します。このリレーションには、停車(通過)する全てのバス停も含みます。上下路線や、同じ名称の路線でも停車バス停が微妙に違う場合は、別のリレーションになります。そして、これらをまとめるリレーションのリレーションが必要になります。

 リレーションにおいては、順番が大事です。Wayが接続されるように、正しく並べる必要があります。行って戻るような路線の場合、2回通る部分のWayは2度並べる必要があります。正しく入力できている場合、バス路線の始点から終点まで、切れ目なくWayが繋がるようになります。(JSOMで簡単にチェックできます)

 バス停も、同じく始点から終点まで順番に並べてゆきます。上下でポールが分かれているならば、上下線のリレーションは、名称は同じ別のポールを含むことになります。この時、ポール位置だけを含めばいいのか、停車位置も含むべきかなどは厳密には決まっていないようでした。(実際には、停車位置の情報はほとんど無いのかもしれない)

 詳しくは、飯田さんのこのドキュメントが参考になります。

実習

 家の近くのバス停や普段利用するバス路線など、よく知っているバス情報を入力する実習を行いました。マッピングパーティーとして皆で調査に行けたら楽しかったと思うのですが、同じバス路線を全員で調べても入力が重複するだけなので仕方ないのかも知れません。私の場合、自宅近くのバス停やバス路線はほとんど入力が終わっていたので、いくつかバス路線が途切れている点を探し、それを直す方法を教えて頂きました。

感想

 OpenStreetMapのコミュニティも、「バスマップサミット」などを開催しているバスマップのコミュニティも、どちらも活発に活動しているのですが、これまでほとんど交流がありませんでした。今回の勉強会は、ふたつのコミュニティがバス停、バス路線データという切り口で初めて交流した、歴史的な意義のあるイベントだったと思います。企画された林さん、佐野さん、会場を準備された諸星さんほか、参加された皆様おつかれさまでした。たまたまふたつのコミュニティに顔を出していた自分にとっても、とてもうれしい企画でした。

 OSMでも特にバス路線を描いている林さん、キムさんから直接手ほどきを受けられる場であり、更に、バスマップのコミュニティにおいても、rosenzu.comとして長年バス停、バス路線、ダイヤデータの整備を行い、運輸局や乗換案内などに提供している伊藤浩之さん、万単位のバス停データを自分の足で調査されている佐野さんなど、そうそうたるメンバーが揃い、大げさではなく、バスデータに関しては日本の英知が揃う場だったと思います。こうした方が揃い、データ仕様などについて議論するのを伺うのは、それだけで鳥肌が立つような思いでした。

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 一方で、これは悪いことではないと思うのですが、OSMの視点と、バスマップの視点と、似たようなことをやっているように見えても、やはり簡単に重なるわけではないということも明らかになったと思います。伊藤浩之さんが「自分のやっていることは地図を作ることではなく、出来た地図に色を塗るような仕事だ」というようなことを仰っていたのですが、バスサービス側に視点を持つと、バス停や路線はいくらでも変わりうるものであり、道路を走る車や人を地図に載せないように、地図という静的なデータベースの一要素にバス停・バス路線が載るのは不思議な感覚があるのかもしれません。静的な構造物と捉えモデル化しようとするOSMの視点と、重ならないものを感じました。(ランドマークとしてのバス停の意味を否定している訳ではないのですが、バスサービス側に視点があると、それは副次的な意味に感じるかも知れません)

 ソフトウェアにおいても、JOSMでの編集は、機能が豊富で汎用性は高いものの、バス路線の編集に特化しているわけではなく、入力のしがたさは否めなかったと思います。簡単に道をなぞったらバス路線が引け、道路の変更に対してうまくやってくれて、バス路線の変更も簡単なバス路線エディタがあったらいいな、と考えてしまいました。

 また、既に大量のバス停データを持っていても、簡単にはOSMへはインポートできないという感覚も持ちました。データの形式変換やMLでの議論のような手続き的な話だけでなく、モデル化の部分に立ち戻ってOSMの「作法」を考慮していないと、データの調整が意外と必要で、一つ一つのバス停をOSM地図上でしっかり見直さないといけないような予感もしました。(これはもう少し具体的にやってみないと分からないのですが)

 このような、細かい技術的課題はまだいろいろな試行錯誤が必要な段階だと思うのですが、しかし、「バス」というテーマでこれだけ熱心な勉強会が開催され、懇親会も非常に濃く熱い話が尽きないという、そんな状況を、とてもうれしく思い、また勇気づけられました。道路や建物というハードウェアに対して、鉄道、バスのような交通は、都市のソフトウェア的な部分で、この部分の豊かさが大事であると多くの人が気付いているのだと思っています。私自身も、鳥取で「バスネット」に関わっているときに、OSMのデータを利用してバス路線図を作成するような試みを学生と行っておりました。十分な成果は出せなかったのですが、乗換案内のようなサービスの高度化を考えたときにも、地図とのより深い連携は重要な課題だと思っております。

 来週に迫った「交通ジオメディアサミット 〜 IT×公共交通 2020年とその先の未来を考える〜」に対しても、とてもいい課題を頂けたと思います。まだしばらく、公共交通とデータ整備について考えていきたいと思います。